NO.19 ナンバリング
国王の執務室で今日の予定を八戒から聞きながら、自分の中で優先順位を考える。
たいていの場合 国に関係する事は最優先にしなければならない事が多い。
その多さには正直 溜息が漏れるほどなのだが、それは仕方のないこととあきらめる。
自分は この国の主なのだから仕方がない。
子供の時からそうだった。
何よりもまず優先しなければならないのは 国に関することだと、
今は亡き 父王にもそう諭されて育って来た。
ところが そう自分に言っているくせに、肝心の本人は時々エスケープを実行していたのを
三蔵は懐かしく思い出す。
それは 宮殿内の職員の慰労パーティだとか 新年の訓示だとかだったと思うが、
今までそこに居たにもかかわらず ふと見ると姿がない。
そして 庭園のあずまやで好きな煙草をくゆらせていたり、
図書室の奥で 音楽を聞いていたりするのだ。
そんな時には お鉢が三蔵にまわってい来ることが良くあった。
優秀な息子は 仕方なく代役を務めて簡単に短く挨拶を済ませる。
本来なら 職員一同みなが怒っていても当然のことなのに、
「陛下は しょうがありませんなぁ〜。」などと 笑っては許してしまうのだ。
それを不思議に思って 当時の教育係に話しをすれば、
「陛下が そんな行動をお取りになるのは、身内の行事の時だけでございますからね。
みな 陛下に甘えられて嬉しいのでございますよ。
それに 陛下がお留守になられれば 三蔵皇太子のお話が聞けるので、
それで 黙認しているのでございます。
皇太子のお声は 本当に身近にお仕えしている者しか聞くことが出来ませんから、
『あぁ、皇太子様も大人になられたなぁ。』と、感慨にふけるのです。
子供の成長を見ることほど 平和と幸福を感じることはございませんから・・・。
どうぞ 陛下をお許しあそばして。」
と、父を他人に庇われてしまう三蔵だった。
自分が今、こうして一国の国王として 任に就き公務を果たしていると、
父王が職員に甘えていた事がよく分かる。
あの人は そういうところが憎めない人だった。
本当の実力や力を充分に持っていながら それを微塵も感じさせることなく
この国を治めていた。
それに比べると自分はまだまだだと三蔵は思う。
国王と言うことだけに縛られて 結婚する相手を選ぼうとしていた。
相手の気持ちや結婚後のことなど どうでもいい事のように思っていた。
だが、それは間違いだと気付かせてくれる女性にめぐり合うことが出来た。
しかも その人は、国にとっても国民にとっても申し分のない地位と利益を
自分にもたらしてくれる人だ。
何の不足もない。
だが、最初がまずかった。
相手などどうでもいいと思う態度のままで 話を進めようとした三蔵に対して、
はなじって怒鳴って反発した上に泣いた。
女になど興味もなくて 今までにあまたの女を袖にしてきた。
冷血漢と 酷い人だと いろいろ言われても なんともなかったはずなのに、
初めてその涙に 罪悪感が芽生えた。
こんな地位に居ては到底望めない 普通の男としてのささやかな幸せを、
とならつかめるような気がした。
そう思ったら どうしても彼女が欲しくなった。
誰にも渡したくない。
誰にも触れさせたくない。
の全てを手に入れたいと望むようになった。
これは 恋なのだと・・・・・
そう気付くまでに それ程の時間は必要とはしなかった。
そのおかげで こうしてとの未来を考えることが出来る。
その人がいなければ 夜も日も明けぬとはよく言ったものだ。
王という立場と 公務が無ければ 自分はきっと一日中の傍にいることを
望んで実行するだろう・・・と、三蔵は自分の正直な気持ちに 思わず口角を上げた。
自分の気持ちなど 王としての生活には必要ないことと、リストにさえ
載せることはしなかったと言うのに、この変わりようにはみなが驚いているだろう。
なんせ自分でさえも 可笑しいくらいなのだから・・・・。
だが、それも悪くないと三蔵は思う。
人として当たり前な感情だ。
愛する者を得ることで、初めて理解できる事もあるのだと判った。
職員や国民が何よりも優先しようとする恋人や家族への行動も
以前なら許しはしなかったが、愛情ゆえに仕方がないことなのだと、許せるようになった。
例え自分の中での優先順位を変えることになっても
それはそれで 受け止められるようになっている。
その自分の変化は、唯一無二の女性の事が起因になっているのだ。
不意に 手元の携帯が着信を知らせる。
自分の気持ちが届いたようなその反応に、三蔵はそれを手に取った。
愛しい人の声を聞ける様に 耳に当てる。
緩んだ顔を見られないように 部屋にいた職員に背を向ける。
だが 甘くなる声だけは聞かれても仕方がないと あきらめる三蔵だった。
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