NO.13 深夜番組
尾行の末にたどり着いた対象者が入り浸る 愛人宅が見える場所に車をとめて
三蔵はラジオを聴きながら 張り込みをしていた。
すでに時間は深夜。
対象者が帰宅するまでは 尾行を続けなければならないため
ここを離れるわけにもいかず三蔵は ラジオに耳を傾けて 暇をつぶしていた。
『さて 次のコーナーへ行きましょう。
リスナーが気になる人物の「あの人は今どこに!」です。
え〜っと今夜の気になる人物は どんな人でしょうね。
「こんばんわ 私が気になる人は 女性誌やCMでよく見かけていた
モデルさんの観世音さんです。
彼女は 15歳ぐらいからモデルやCMで活躍していたので
今現在20歳くらいのはずなのですが
この春からファッション誌にもCMにも出なくなりました。
他のモデルさんのようにタレントにもならなかったので 露出は少なかったですが
とても大好きなモデルさんでした。
今 どうしているのか とても気になります。
調べて教えて下さい。」と言うことです。
はい 調べさせて頂きましたよ。
観世音さんは 現在20歳ですね そして モデルさんを引退されたそうです。
これは所属事務所に問い合わせたので 間違いがない情報です。
今は 都内某所でOLさんをしていらっしゃるそうです。
ちなみに 事務所の方のお話では さんはタレントや映画そしてTVに出演のお話が
凄く沢山あったにもかかわらず それを全て断っていたそうです。
手元に写真がありますが 綺麗で可愛い人ですねぇ〜。
僕もこんな人を 彼女にしたいです。
このお葉書をくれた・・・・・・・』
ラジオからは 次の葉書が読まれている声が聞こえているが
三蔵にはどうでもよくなって 耳を素通りしていった。
この春から オフィスに加わったの事を 可愛い綺麗な女の子だと
知ってはいたのに そんなに活躍して 人気があるとは三蔵は認識していなかった。
それほど高級なものを着てはいないと思うが 綺麗で清潔感のある服装。
強いと知っていても 庇ってしまいたくなるような 優しい笑顔。
モデルをしていたから背は高いが そうとは感じさせないのは
あの性格のせいもあるだろうな・・・
と 三蔵は の事を考える。
三蔵ばかりではなく 八戒も悟浄も悟空も
できればを彼女にしたいと思っている事は
4人全員がそれぞれに知っていて の見えないところでの争奪戦は
なかなか大変だったりする。
知らないだけで を想っている者は もっといるかも知れない。
肝心のは 幼い恋を引きずっていて いまだ誰にもその心を許していないというのも
三蔵達にとっては 好ましいものに映っていた。
その恋の行方を 三蔵が握っていると言うのも 三蔵にとっては
うれしかったりするのだが そんな事は全然気が付いてもいない。
今の葉書の主は 女の子だったが まるでラブレターか告白のように感じた。
公共電波を使っての告白。
深夜番組とはいえ 聴いているものも多いだろう。
それがきっかけで を思い出し 愛しく思う者がいる。
そう思うと 三蔵の眉間のしわが 深くなる。
「俺も焼きがまわっているな。」と 自嘲気味につぶやく。
こんな顔も見たこともない の事を知りもしない ラジオに葉書を書いただけの少女にさえ
嫉妬を覚えるなぞ 三蔵には初めてのことで 自分の感情なのに戸惑う。
自身 モデル時代の事をとやかく言われるのが嫌で
髪色を自然な黒髪に戻し お化粧も薄いナチュラルなモノにしている。
だから 言われないとモデル時代を知っていても だとは気付かないほどだ。
三蔵が そんなの変化を 喜んでいることなど 当のは気付かないだろう。
他のことには 気配りが出来て 言わなくてもよく回る頭は、
こと 恋愛のことには これでもかと言うほどに 鈍感なのだ。
だからこそ 悟浄や八戒の遠まわしなアピールも ただの親切だと思い込んでいる。
それをあえて に教えてやる気など さらさら無い三蔵だが、
2人の行動には 充分に気を配っているつもりだ。
「尾行と一緒で 油断したらお終いなんだよ。」
愛人宅から出てきた人物2人を 証拠提示のために カメラに収めながら
三蔵は1人つぶやいた。
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