NO.11 柔らかい殻
その美しい顔で微笑んでくれるのを見るのが嫌いな者は
この桃源宮にはいないだろうと三蔵はの顔を見ながら思っていた。
本人が自覚するしないにかかわらず の顔や姿は美しい。
延王曰く
『王や麒麟に姿の醜悪なものはいない。
天はその内なる王としての資質を愛しながらも
外見の麗しいものを選んでいるに違いない。』
三蔵もそれには賛同の意を持っていた。
年齢や性別を超えて 確かに王たちは人を惹きつける要素を数多く持っている。
その性格、顔や姿、言動、どれをとっても惹かれる人間であることには間違いが無い。
王だから惹かれるのではなく。
どうしようもなく惹かれてしまう何かを持っているから 王になり得るのかもしれない。
天は何をもって麒麟に天啓を授け王を選ばせるのかは
三蔵自身にも今もって理解できない。
だが、自分の王はしかいないと三蔵には確信がある。
それは言葉では説明できない、不思議な感覚。
でも 決して嫌いじゃない、自分だけが持つ王を見定める力。
王にはいろいろな人物がなる。
12歳のおてんば娘、蓬莱の胎果の少女、農民の青年、武人の将軍、
舎館の家公・・・と王になる以前の出自は様々だ。
も少学に通って官吏を目指していた 里娘であった。
その王たちの国の治め方もまた 様々である。
どれがいいのか どれが失道に至る治め方なのかは 分からない。
だが これから目指す国への道しるべとして
初勅にはその特徴が現れることがよくある。
は『国母となりたい。』『この桃末国という家の主になりたい。』と 言った。
自分は 剣技に長けた武人や軍人でもなければ 政策に長けた官吏でもない
ただの女だから 自分がこれから進むであろう未来に 王として役立ちそうなものは
女性としての資質なのだろうと言っていた。
だから 国のお母さんにならなれるだろうと思う・・・・と。
その母とは 吾子をわが身に替えて守り育て 慈しむと言う。
卵果の殻のように 柔軟でありながら何よりも強い意志。
女は弱き生き物だというが、母は女を超えてしまうのか 計り知れない強さを持つ。
もまた 女性特有の柔らかさと儚さを持っているのに、
いざとなると麒麟の三蔵や支え従う男たちでは敵わないほどの覇気を見せ、誰よりも強い。
あの様子なら 自分の子供は持てなくても 替わりに桃国と言う子供を
立派に育てられると三蔵は思う。
そんなだからこそ 母を知らない自分もきっと額ずいてしまうのだろう。
三蔵は 登極からこれまでの王としてのの変化を思い出して
人知れず満足げに口角を上げた。
ここまでにずいぶん成長したと、そう思う。
王としての成長を遂げながら 人としても輝いている。
王気など見えないはずなのに、その覇気には あの武人として優秀な悟浄や捲簾も
官吏として怜悧な頭脳を持つ八戒や天蓬も、
何ものにも囚われないように見える悟空や師匠の光明も
皆が口をそろえて『主上は 光り輝いているように感じる。』と言う。
知らず知らずのうちに 姿を目で追い。
その言葉に耳を傾け。
微笑に心を奪われる。
そして、主上が包み守る世界へと 取り込まれるのだ。
が守り慈しむ 『桃末国』と言う殻の中へと・・・・。
その先頭に立ち 誰よりも強くに惹かれ 心を奪われているのは己だと、
その王気を 正殿の方に確認して、三蔵は煙草に火をつけた。
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