Break through 2




クラス会や同窓会に出席して、もちろん彼氏が同じクラスなら同伴と言うことも
あるだろうけれど、そうでないならば車で送迎してもらう。
着飾った自分をうやうやしくエスコートさせて、ちょっと他の子に差をつけて優越感に浸る。
彼氏がいる女の子なら誰でもこういうことは一度は夢見るだろうと思う。
事実、成人式の会場では、そんな女の子たちを沢山見た。
私も龍介や鷹介が送迎してくれると言ってくれたけれど、
今日はお父さんに甘えたいとそれを断った。
両親にとって私は一人だけの子供で、まして娘だ。
友人の口から「『彼氏なんて許さん。』と、交際を反対されている。」なんて
話を聞くたびに、お父さんの寛容さにいつも感謝していた。
確かに、他の彼氏を連れてくることから比べれば、龍介と鷹介を選んだことは
安心できることだったかもしれない。
でも いくら赤ちゃんの時から見ているとしても、
私たちの恋はイレギュラーだ。
それと分かっていても許してくれた。
そんなお父さんに、成人式の日はエスコートして欲しかった。



だから、龍介と鷹介がクラス会のあるホテルまで迎えに来てくれると
言ってくれるなら、断れないだろうなと思った。
あの時、渋々ながら引いてくれたのは分かっていたし。
本当はクラスメイトの女の子たちを刺激したくないから、断ろうと思っているんだけど。
それを言葉にする前に、龍介が口を開いた。
、もし僕たち2人で行くのが人目に付いて嫌なのなら、
送るのと迎えに行くのを1人ずつ別々にやっても良いよ。
それでも今回は、やらせて欲しいんだ。」
龍介の言葉に返事をしないままでいると、
駄目押しに鷹介も「の送迎を他の奴になんて、やらせたくないんだ。
だって、中学のクラス会って言ったら当然男も来るだろうし。
それに高校と違って地域が同じだから、1人にしたらつけ込まれ易いからね。」
2人の顔が真剣だったから、そんなことないよという否定の言葉を
そのまま飲み込んだ。



その上で、私が何か言われないように1人ずつ担当するとか言ってくれる。
誰よりも何よりも大事にしていると、言葉で態度で示してくれる2人。
『彼氏が冷たい。』と嘆く友人に聞かしてやりたい。
そんなことは絶対に言わないけれど。
でも 私にとって龍介と鷹介と付き合うことは、
何も恥ずかしいことでもなければ、隠すことでもない。
まして、中学時代のクラスメイトなら、あの過保護な双子として
その存在は既に知っているから、冷やかされる位で済むだろう。
「龍介、鷹介、ありがとう。
じゃあ、2人で交代に運転手を務めて、交代にエスコートしてくれる?」
私の返事に「「いいの?」」と、彼らの反応がダブった。



翌日。
気取らない小紋の着物だから髪は自分でアップにした。
頭の後方の高めで結って、バレッタについたネットに綺麗に入れただけだけど、
それでもバレッタの和風なリボンのおかげで、違和感がない。
着物の柄や色のおかげでお茶のお稽古に行くよりも少し華やいだ雰囲気になった。
色半襟(はんえり)に刺繍が入っているせいかもしれない。
何より、これを私にと見立ててくれたのが龍介だからか、
どこか彼の小説に出てくる女性のようなイメージの着物だ。



支度が出来て階下に降りると、2人はもう我が家のリビングでくつろいでいた。
しかもなぜかスーツ姿。
私に気付いた鷹介が、ソファから立ち上がる。
だけど何か言う前に、すかさず母が声を出す。
「まあ、それ素敵ね。とてもよく似合っているわ。」と。
「おばさん、僕が言おうと思ったんですよ。
横から良いところ持って行かないで下さいよ。」
鷹介はあからさまにがっかりしたように、肩を落とす。
「あら、ごめんなさい。」
全然悪いと思っていないのに、母は言葉の上だけで謝るとクスクス笑う。
「ねえ、どうして2人ともスーツなの?
今日は何かあるの?」
鷹介が何か考えているようだったので、龍介に向かって尋ねてみた。



「いや、何もないけどね。
綺麗に着飾ったお嬢様をお送りするのに、ジーンズと言うのも
似つかわしくないんじゃないかと思ってさ。
それに、送ってから帰って来てまたでかけるのも面倒だから、
どこかで時間をつぶしてそのままデートしようと思ってさ。
それなら、最初からに相応しい格好の方が良いだろ?
と、まあそういう訳です。
支度が出来たのなら、出かけようか。」
龍介がそう言って立ち上がると、玄関へと向かった。
「じゃ、行ってきます。
お夕飯は、2人と一緒に食べてくるからいらないよ。」
母に向かってそう言うと、「OK。」と親指を立てた手で合図を送られた。



龍介が先に靴を履いて玄関に立っている。
私が行くと手を差し出してくれた。
その手を取ってから草履に足を滑らせる。
その為に待っていてくれたんだとわかって「ありがと。」と言葉をかける。
普段から龍介はこういう気遣いをしてくれる。
着物だからというわけじゃない。
後から来た鷹介が「龍、ずるいぞ。行きは俺がエスコートするって約束だろ。」と、
文句を言った。
3人で遊んでいると、たいてい鷹介が自分の好きな方向に走って行ってしまっていた。
そしてちょっと強引に私を導いてくれた。
女の子の私は、いつもそれに遅れてしまうけれど、
その私と一緒にいてくれて、手を差し出してくれたのが龍介だった。
2人で鷹介のところまで行くと、鷹介はそれまでちゃんと待っていてくれて、
手を取って3人で歩くというのが定番。



そこまでなら、きっと龍介を選んでいたと思う。
でも 龍介が常に私を優先にして考えてくれたり行動したりするのに比べ、
鷹介はそういうことを一切せずに、自分の思うとおりにする時がある。
置いていかれたように感じるそれが、私に鷹介をまぶしく感じさせる。
そして、鷹介に追いつこうと思うことで、私も龍介も頑張れているような気がする。
だから、龍介だけも鷹介だけと言うように、1人だけを選べない。
もし、願いが叶うなら、2人が1人になればいいなと思う。
そうしたら、恋をするのも簡単だ。
だけどその一方で、2人だからこそこうして好きになったとも思えるから不思議だ。



玄関を出たところで、龍介の手から鷹介の手へとエスコートが交代した。
龍介は先に運転席に乗り込んだ。
鷹介は後部座席のドアを開けてくれて、私を乗り込ませてから
車を反対側に回り込み身体を滑り込ませた。
「じゃ、出すね。」
龍介がそう断って、車を発進させた。
会場のホテルまでは30分ちょっと。
往復として1時間程度だが、クラス会は2時間半はあるだろう。
その間何をしているのだろうか?
「私がクラス会に出ている間、2人はどうするの?」
「ん?仕事する。」
隣から鷹介が返事をした。



「どうしようかと思ったけど、結構良いホテルだったからさ部屋を予約したよ。
俺も龍も少し仕事してのこと待ってる。
クラス会が終わったら、部屋に直接おいで。
レストランもホテルの中のを使えば良いし。」
龍介がそう言って、手元のゼロ・ハリバートンを指差して笑った。
「だから、はクラス会ゆっくり楽しんでおいで。
遅くなっても心配しなくていいから。」
ホテルのロータリーに向けてステアリングを切りながら、龍介が付け加える。
「仕事が詰まってるって知ってたら、頼まなかったのに。
ごめんね。」と、申し訳なくて、謝った。
2人が学生である他に仕事を持っていて多忙なことは良く知っている。
それでも私のことを優先してくれている。
それに甘えていることを思い出して、申し訳なく思った。



「違うって、誤解すんなよ。
同じ待っているなら、仕事でもするかって思っているだけだから。
俺たちがどうやって時間をつぶすかなんて、が気にすることないんだって。
仕事が乗らなければ、テレビを見てるかもしんないし、
昼寝しているって可能性もあるんだから・・・・なぁ?」
鷹介が怒るように否定して、運転席の龍介に同意を求める。
、遠慮し過ぎだって。
いつも言っているだろう、僕も鷹もやりたいからやっているんだって。
そんな風に言われると、逆に悲しいよ。
との時間は、僕や鷹にとってとても大切なんだ。
多少の仕事のやり繰りをしてでも、との時間を作りたいんだ。
僕たちの為にもそんな顔しないで。」
ロータリーに車を止めると、運転席から振り返って龍介が顔を見せた。
優しそうな風に言われて、それ以上言い募ることなんて出来ない。
「うん、分かった。」
2人にそう返事をすると、ドアボーイが開けてくれた車から降りた。



龍介は車を頼んで私と鷹介がいる方に歩いてくると、
2人して私の両側に並んだ。
今日はリュックではないけれど、着物用の小さなバックだけ下げている。
その他の物が入った小ぶりの手提げは、鷹介が持っていてくれた。
「これは俺たちが持ってた方が良いだろうから、このまま部屋へ持って行くよ。」
「お願い。」
そうして2人の差し出してくれた腕に手を絡ませる。
いつもながらに2人の優しいエスコートに思わず笑顔になる。
2人にそれぞれ顔を向けると、視線が合う。
2人も笑顔で返してくれたことに、幸せを感じた。





2005.03.23UP
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