「お仕置き」



浩瀚は忙しい。


体が空くと政務室に来てくれるが、留まっているわけにはいかないのだ。

浩瀚は国のため、私のために日々国を発展させる担い手として奔走している。

そして、浩瀚はそれができるほどの男だった。

頭脳と人柄を持った浩瀚。

だからだろうか、浩瀚がたまに女官たちや鈴や祥瓊と話しているところを見ていると、

妙な気分になる。



あの時は忙しかったし、女官達はともかく、

祥瓊や鈴が私の大切な友人の一人であると認識していたので、

それが嫉妬であるということに私まだ気付いていなかった。

ただ、胸の中に煙でも充満しているかのような気分になっていた。

私をざわめかせる。

最近は、特に祥瓊が浩瀚と一緒にいるらしい。

時折、夜遅くまで・・・


祥瓊は、確かに綺麗だ。

類を見ない程の美しさを持ち、それでいて艶やかな魅力のある人物である。

そして、有能な女史として私を支えてくれる大切な友人。

それは事実だ。



私は馬鹿だ。

こんなにも支えてくれている友人や彼を疑うだなんて。



・・・それなのに、私は自分の友人を・・・

彼と居るときだけは手放しで喜べる気にはなれなかった。





そして、今日も祥瓊が訪れていた。

陽子は笑顔ともつかない妙な表情を浮かべて祥瓊を出迎えた。

祥瓊はその秀麗な顔に優雅な微笑を浮かべ、陽子に挨拶した。

「主上、清書した書簡をお持ちしました」

そう言って、両手に抱える程の書簡を卓子に置いた。


凛とした、声。

涼やかな声は陽子の耳に心地良く響いた。

陽子はこくりと頷いた。

「分かった、ご苦労だった」


その日、陽子はそのまま会話を打ち切り、政務を終わらせると自室へと篭ってしまった。

友人に対してこんな気持ちを抱く自分がわからずに、陽子は寝台に横になる。

睡魔は訪れる気配すら見せなかった。




粘りつくような時間がゆっくりと流れる。




カタッ




陽子はわずかな物音を聞いた。

陽子は体を起こし、そっと自室の扉を開く。

立っていたのは浩瀚だった。


「あ・・・・浩」

「主上、入りますよ」

陽子の返事も聞かず、浩瀚は陽子を押しのけるようにして臥室へ入り込んだ。

そして、チラリと陽子を見やった。


「どうしましたか、主上。そんな顔をなさって」

「・・・あ、ど、どうしたんだ?祥瓊と政務をしていたのでは・・・」

浩瀚の問いに答えず、陽子は不用意な発言をしてしまったことに、しまったと思った。

浩瀚は不審そうに眉を潜めた。

「・・・祥瓊がどうしたのです?」

「・・・・・・・」


浩瀚は立ち上がり、扉に背を向けて立っている陽子のところへ、ゆっくりと歩いてくる。

陽子の前に立つと、手を伸ばして扉の鍵を閉め、

陽子が逃げられないように閉められた扉に押し付けた。

反射的に陽子はビクッと体を震わせた。


「何をお考えですか?」

「・・・・・・別に」

「まさか私が祥瓊に気でもあるとお思いか?」

「え!?まさか、そんなこと・・・」

「そうですか・・・しかし許せませんね、そのようなことは」


浩瀚は無理に陽子の唇に自分のそれを重ねた。

驚いた陽子は慌てて身を引こうとしたが、背中には扉があたっている。

逃げようにも身動きのしようがなかった。


なんとか動こうと苦戦している間にも、浩瀚の舌は陽子の口内を暴れまわる。

縮こまる陽子の舌を引きずり出し、それを痛いぐらいに、噛む。

口の端から唾液が零れても気にせず、吐息まで奪うような口付けは延々と続いた。



「ん・・・・・ふっ・・・・んっ・・・・!」

離してくれと言いたくても、唇が塞がれているため、その言葉も紡げない。

それならば、と手で浩瀚を押し戻す素振を見せても、その手を扉に押し付けられる。

陽子の両手は、頭の上で一つに打ち付けられてしまったかのようだった。

木製の扉は、陽子の体重を受けてギシリ、と軋み声を上げた。


浩瀚は陽子の口内を犯しながら、同時に空いた手で陽子の下肢をまさぐる。

陽子は嫌がって腰を引いたが逃げ道は無く、すぐに浩瀚の手に捕まった。


「・・・んんっ・・・・!」

下履きの中に、高い体温の手が侵入する。

直接敏感な部分に触れられる。

気付けば浩瀚は唇を開放し、今度は首筋に熱い吐息を浴びせた。

「あ・・・・!浩瀚、や・・・・っ!」

「あまり騒ぐと外に声が漏れますよ。

扉を隔ててすぐ回廊だという事を忘れにならぬよう・・・」

「・・・!」


そう、陽子が背にしているのは、たった一枚の扉。

もしかしたら、すぐ後ろを誰かが通るかもしれないのだ。

陽子は背筋を舐め上げられたかのような悪寒を感じた。

「あ・・・・・あぁ・・・・っ・・・!」

それでも、浩瀚の執拗な動きは止まない。

全身を丹念に愛撫され、胸の先端を親指の腹でぐりぐりと弄られる。

耐え切れずに喘ぐが、愛撫は止まらない。

だが、その行為は優しすぎて、深い快楽まで行き着かない。

「ふっ・・・」

快感を通り越して、もはや苦痛だった。

陽子は涙声で懇願した。

「浩瀚・・・!お願い・・・だからァっ・・・・」

「達せてくれ、と?嫌ですね。私は苛立っております故」

「ちっ・・・・なんでっ・・・・んんっ!!」

上気した、しかし恍惚感の現れない陽子の表情に、浩瀚は口元に薄笑いを浮かべる。


「これでも、私は独占欲が強いようです」

「はっ・・・・はっ・・・・ああぁ」

「いい顔ですね、主上。誰にも見せることなきよう」

陽子は首を上下に動かした。


自分だって、浩瀚以外にこんな乱れた姿を見せるつもりは無い。

それなのに。


「まだ他のことでもお考えか?」

「・・・・ッ!」


耳元で意地の悪いことを囁きながら、浩瀚は陽子の割れ目に指を突き立てた。

いつの間にか解かれ、自由になった両腕で浩瀚を押し返そうともがいたが、

体格の差も手伝って、自分の体に悪戯する浩瀚は微動だにしない。

尻たぶを開き、露になった秘部を攻める。

陽子はその碧い瞳を潤ませて、嫌だという言葉を何度も呟いた。


「嫌ですか?私に抱かれるのが?」

「違っ・・・・、あ、っん!」

根元まで入っていた指が、勢いよく抜かれた。

一瞬、快感が局部を襲ったが、すぐに収まる。

浩瀚は胸元から小さな瓶を取り出して、手になじませた。

ぬらぬらと光る指先は、またも陽子の体内に埋め込まれる。


「・・・・・・・、主上は、本当に素直に反応なさる」

「に・・・・言って・・・・」

濡れた指は根元まで軽く収まった。

中で間接を曲げると、僅かにぐちぐちと濡れた音がする。

身体が熱い。


「私といる時には、他の者のことは考えぬようにしてくださいませ・・・」

「や・・・っ、あっ、あァっ!」

指が増やされる。

中での動きも、一層激しくなった。

陽子はやめろ、と何度も心の中で叫んだ。

だが、口に出す前にそれは喘ぎになってしまうのだ。



全ての思考がすぐに霧散する。

体内に埋め込まれた指は、それぞれに意志があるかのように蠢くのだ。

気持ち良いところに掠るが、それでも達するまでには行き着かない。

陽子は体を何度もびくつかせた。

自然と口が開き、喘ぎ声が漏れる。




「はっ・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・」

膝がガクガクと震えた。

立っているのが辛かった。

「浩瀚・・・・・ダメ・・・・たっ・・・てられない・・・」

「そうですか?では、膝をついて下さい」


今日の浩瀚は随分と意地悪だった。

だが、陽子は彼に従った。

崩れるように床に膝をつくと、顔を床に擦りつけるようにして腰を高く上げた。

そんな自分がひどく淫乱で浅ましく感じ、陽子はぎゅっと目を閉じた。

が、くすりと浩瀚が笑う声が聞こえる。

耳も塞ぎたかった。


「主上、私にどうしてほしいですか?」

「・・・・っ!」

そんなことまで言わせようというのだろうか?

陽子は、口を開くことができなかった。

喉がひりついて、声が出ない。

否、出せない。

肩を震わせ、しばらくの沈黙が続くと、浩瀚は首を傾げて言った。


「言わないとわかりませんよ。一晩中このままでも宜しいのですか?」

「・・・や、だぁ・・・・・」

「では、どうしてほしいのです?」



再び、問い。

陽子は羞恥に唇を震わせながらも、ようやく言った。

「い・・・・れて・・・!」

言った途端、顔にカッと血が上った。

これでは、この行為を自分が望んだようではないか。

恥ずかしさで逃げ去りたくなる衝動を抑え、陽子は浅く、

早く呼吸をしながら、浩瀚の行動を待った。

だが、それでも浩瀚は納得していないようだった。

「入れてほしい、とは何でも宜しいのですか?」


わざとらしく呟くと、浩瀚もまた床に膝をついた。

そして、高く突き上げた陽子の腰に唇を落とす。

両親指でを揉み解し、ひくつく部分に舌を差し入れた。

「ひっ・・・・・!」

秘部の浅いところで、熱い粘膜が踊る。

それは決して奥まで届かず、だが妙に快感の部分を刺激した。

「や・・・だっ・・・!違っ・・・!浩瀚っ・・・・!」

碧い瞳は潤みを帯びている。

上気した顔で、いやいやをするように左右に動かした。

「舌ではないのですか?じでは指ですか?それとも別のものですか?」

浩瀚は一旦陽子から離れると、窓際の卓子へ歩き、何かを手に取り戻ってきた。


手にしていたのは、棒状のもの。

先端に白い柔らかいものがついた、棒。







まだ真新しい筆を3本、陽子の目の前をちらつかせて、

おもむろに潤滑油と唾液でぬらぬら光る秘部に1本、突き立てた。

「・・・・!!」

ぐにゃりと柔らかな毛の感触に続いて、冷たい木製の棒が体内に入り込む。

浩瀚以外のものに犯され、陽子は恐怖で声を上げた。

それは悲鳴に近かった。

「ひ・・・・!ああぁっ!浩瀚っ・・・!や・・・めてっ!」


かなり乱暴に筆は体内を暴れまわる。

穂先の柔らかい毛。

それで、かきまぜられる。

だが、それは何度も何度も陽子の性感帯を擦り、秘部は、

留まることを知らないように滑った液で満たされていく。

「ああっ・・・!あンんっ・・・!!」


やがて、悲鳴は甘い喘ぎに変わっていった。

ぐちゅぐちゅと淫猥な音が耳を刺激し、体内では血の通わない、

無機質な道具が行ったり来たりする。

無意識に陽子の腰は揺れていた。

浩瀚は自分が教え込んだ体を恍惚漂う表情で眺める。

「良いみたいですね、主上」

くつくつと笑みを漏らしながら、残りの筆も突き入れる。

ぐちゅっ、ぐちゅっと濡れた音を立て、筆はズブズブと体に沈む。

開いた秘部に不安定に刺さっている筆。

それを浩瀚は動かしつづける。

「あ・・・ああぁ!や、だ・・・!やめて、やァっ・・・!」


ビクン、ビクンと体が波打つ。

その度に苦痛とも快楽ともつかない涙を流した。

「主上、厭だ厭だと言う割には腰が揺れてますが。このまま最後までしますか?」

「や、ぁ・・・だ・・・・」

「じゃあ、何が欲しいのです?言ってください、貴方の欲しいものを差し上げます」


床に這いつくばり、腰を高く突き上げ、

口の端から唾液を垂らし喘ぎ声を上げている・・・。

さらに浩瀚は自分に恥辱を晒せと言うのか。

ここまでやらされるなど、酷い、と陽子は思った。

しかし、陽子の忍耐力も限界だった。


「浩瀚・・・。浩瀚・・・が欲し・・・・ッ・・・・・」

「・・・・私で宜しいのですか?」

「んっ・・・。浩瀚じゃないと・・・・、やだっ・・・!」

「・・・やっと言ってくださった」

「ひぁぁっ!」

浩瀚は満足そうに目を細め、無造作に突っ込んであった3本の筆を一気に引き抜いた。

筆からは粘りのある液体が滴り、生暖かくなっていた。

浩瀚はそれを置き捨てると、既に熱くなっていた自分の猛りを、

濡れてびくびくしている陽子の秘部に押し当てた。


「力を抜いてください、主上」

「ふ・・・ぁ、あんっ、ひゃああっ!!」

声を掛けられ、ふっと息を吐いた瞬間、陽子の中に浩瀚が入り込んだ。

無機質な筆などより太く、熱い棒。


それは自らの潤滑油のぬめりで、何のひっかかりもなく押し進んでくる。

陽子は体に満ちる充実感と快感に、甲高い声を上げた。

最奥まで打ち付けたそれは、根元まで入りきるとズルズルとその身を引く。

そして再び、打ち付ける。

その動きが有る度に、中ではじゅくじゅくと水音がし、

陽子の太腿から透明な液が流れた。

「あっ・・・、はっ、ああぁ!」

「主上・・・これで宜しいですか?」

「うっ、あ・・・・。うん、イイ・・・・よぉお・・・・」




しばらくして、机の上の燭台の灯が消えた。

真っ暗な闇のなかで、浩瀚の匂いを感じながら、陽子は意識を手放していった。





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「異端文書」
葉月 萌 様運営サイトの9万打アンケートに答えて頂いた小説です。
ありがとうございます。
内容が内容だけに 「月表」には置けないので「月裏」にてUPさせていただきました。