鳥語花香(ちょうご かこう)

『鳥のさえずりや鳴き声と、馥郁とした花の香りのこと。
春の美しく 心地よい風物の様子。』





 もし生まれ変わったら 何になりたい?」

ジープに揺られながら 悟空は突然 に尋ねた。

昨夜泊まった宿の食堂に 夕食の時 辻占いがやって来ていたのを、

悟空は興味深そうに聞き耳を立てていた様子だったので、

そこで 前世とか生まれ変わりなどという言葉を知ったのだろうと、

予測がついたが こんな質問をされるとは思っていなかった。

「そうね しいて何かを上げるなら 鳥になりたいな。

天にも地にも縛られることなく自由で、それでいて どちらでも暮らせるから・・・」

それを聞いていた三蔵は らしい答えに薄く 口角を上げた。

もう1人 それを聞いていた者があった。

も変わった物になりたがるな、丁度退屈していた所だその願い聞き届けてやろう。

どんな鳥がいいか考えなきゃいけねえな、美しくないと 俺の美学に反する。」

そう言いながら 声の主は 楽しそうに笑った。





次の朝。

三蔵は 己の枕許で 美しい鳥のさえずりを聞いて目が覚めた。

どうして 野生の鳥が こんな所にいるのだろう?

窓を開けて寝た覚えもない。

それにこんな鳥でもいたら自分よりも喜んで微笑を浮かべる愛しい女の姿のない事に、

首をひねりながら 身を起こした。布団には の衣類がそのまま置いてある。

三蔵は 窓を開けて鳥が空へと飛び立てることが出来るようにしてやった。

なのに 野生と思われる鳥は 逃げようともしていない。



「ピールリ、ピィピィ」

、どこだ?」

「ピィピィ」





三蔵は 自分に返すようになく鳥を まじまじと見た。

か?」

「ピ−ルリ、ジィジィ。」

「なんだって 鳥になんかなっているんだ。

昨日は そんな事を言ってたが 自分でやったのか?」

「ジィジィ。」

「そんなわけねぇか。すると あのクソババァだな。」

訳がわかると 三蔵は 深いため息を吐いた。

なんだって 鳥になんかするんだ! 無駄にでかい動物よりはいいけれど、

鳥では 抱いて眠れないし、意思の疎通だって図れないではないか。

しかし 一番の被害者は なのだろうと思う。





三蔵は と思われる鳥を 良く見ようと、人差し指に止まるようにと 差し出した。

すると 鳥は羽ばたいて 三蔵の右手の人差し指に止まった。

鳥は『おおるり』と呼ばれている鳥で、

頭と背面が美しい瑠璃色で 尾羽の基部は両端が白い。

腹部は真っ白で顔から胸までは漆黒という 動くサファイヤのような鳥だ。

さえずる声も美しく 聞き惚れるほどである。

を鳥にするならと思えるほどの美しさだが、

本人の美しさに比べれば やはり見劣りする。

「朝飯に行くぞ。」そう声を掛けてやると、三蔵の指から肩に移動してとまっている。

その頭を 三蔵の頬に摺り寄せ 「ピールリ、ピィピィ。」と鳴いた。

その愛情の表現の可愛さに 思わず三蔵の口元に笑みがのぼった。





食堂に下りると 八戒と悟空が待っていた。

「おはようございます 三蔵。はどうしたんですか?

どこか具合でも悪いんですか?」と八戒が尋ねた。

「八戒 は 俺の肩にいる。」

「「その鳥が?」」悟空も一緒になって 鳥を見た。

「そうだ 今朝 起きてみたら この鳥がの代わりに居たんだ。」

「ピ−ルリ、ジィジィ。」

「「綺麗な声。」」

「三蔵 なんだか だと納得できる姿ですね。

きっと あの人の差し金なんでしょうが、

どんな鳥にしようかと 考えたでしょうね。苦心が忍ばれますよ。」

八戒は のん気そうに答えた。

「悟空 悟浄を起こしついでにのことも教えてあげてください。」

「はーい。」悟空は 八戒に言われて悟浄を起こしにいく。

その肩に 鳥のはとまって ついて行った。

悟空は 肩に来た鳥を見て、実にうれしそうに笑った。





三蔵は 自分の肩から悟空の元に飛んでいった 

を目で追いながら 煙草に火をつけた。

 三蔵が煙草を吸えるように 悟空の肩にいったんですね。」

八戒が いつもの笑顔で そう言った。

「フン、余計な気遣いしやがって!」

確かに が肩にとまっていたのでは、煙草が吸えない。

しかし 三蔵にとっては 煙草よりもが 

他の野郎の肩にとまっている方が 面白く無いのだった。

悟浄を起こした悟空とが階段を降りてきた。

悟空は を指にとまらせて、笑顔全開だ。





しかし 食堂に入るとその指を飛び立ち 三蔵の肩に戻った。

三蔵は 悟空の戻る前に煙草を消して 新聞を広げておいたのだ。

それから 三蔵が煙草を吸いたい限界が来ると 

は黙っていても悟空か八戒の肩に行く。

常に煙草を離さない悟浄は なかなか 指にとまってもらえなかった。

むしろ 悟浄は煙草を吸う自分を から離していたくらいだ。

そんな悟浄でも 食事の時には煙草を離す。

その時だけは も悟浄の肩にとまりに行くのだった。

鳥のの態度は 人間の時と同じで、4人に愛を注いでいる。

常にとまっているのは 三蔵の元だが、

お茶を飲む八戒の肩に 喧嘩をする悟空には止める様に促すがごとく

目の前に羽ばたき、悟浄にも気を配り 本来の姿の白竜にも

慰めるようにとまりさえずる。

そして 三蔵の肩か指に戻っていく。





妖怪の襲撃の折には ジープの下で終わるのをじっと待っている。

それは 横で見ていても 可愛い姿に違いなかったが、

話ができないという最大の難点に一番最初に根をあげたのは 

と話をするのが大好きな悟空だった。

「俺さ 鳥のも好きだよ。でもさ もう 鳥になってから3日だよ。

やっぱりちゃんと話してぇな。

俺の言った事に返してくれる の笑い声や笑顔が見てぇよ。

なあ 三蔵、何とかならねぇの?」何時になく元気のない声の悟空。

「ん・・・あぁ、他の誰でもない 悟空がそう言うんなら、

明日の朝あたりには 元に戻るかもな。」

三蔵は 新聞の影から 悟空にそう言った。

悟空は 三蔵の言わんとした事は 解らなかったが、

が 三蔵の肩から自分の肩に飛んできて頬擦りをしてくれたので、

その場はそれだけしか言わなかった。

それ以上言っても 三蔵の機嫌を悪くし、鳥になっている

追い詰める事になると思ったからだった。




その夜。

「そろそろ 戻してやれよ。クソババア。

悟空が限界だぞ。」宙に向かって 三蔵は吐き捨てるように 言った。

「ピ−ルリ ピーリル、ジィジィ。」と三蔵の肩のも鳴いた。

「言うだけは言ったからな。

 服はここだ。」と 鳥になって初めて の衣類を 卓の上に用意した三蔵。

「さあ 寝るぞ。」ベッドに横になると この3日間と同じように 

鳥のも三蔵の横にうずくまる。

「いくら美しくても 鳥じゃ抱けねぇからな、は 人の姿のほうがいい。」

横の鳥を見ながら その背を優しく撫でてやる。

大人しく撫でられていただったが 愛らしい身を動かすと

三蔵の口元に寄り痛くない様に くちばしで口付けをした。

その行為に 三蔵の口元に薄い笑みが上がった。




次の朝。

「三蔵 朝です。起きてください。」愛しい女の声で目覚める朝。

重い瞼を開けた三蔵に 柔らかく優しい口付けが 頬に落とされる。

「戻ったのか?」覚醒した頭で まず 確認した。

「はい 観音も悟空には 甘いようですね。

それに 私も不自由でしたので、怒っておきました。」

「そうか 何処も大事無いのか?」

「はい 大丈夫ですよ。ご心配とご迷惑をお掛けしましたね。」笑顔で 答える

三蔵は の腕を引き寄せ 己の胸に抱き寄せた。

「やっぱり この方がいいな。」

「はい 私もこの方が 落ち着きます。

今日は 悟空が放してくれないでしょうから、嫉妬しないでくださいね。

今のうちにお願いしておきます。」

「あ?あぁ、解った。

ただし 今夜は 俺が放さねぇからな、覚悟しておけよ。」

三蔵は もう硬くとがっていない唇に、3日ぶりの口付けを落とした。







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お詫び
「おおるり」の描写は 雄の姿にさせていただきました。
雌が美しい鳥って なかなかいなかったので、ごめんなさい。

11111番 姫胡 様からのキリリクでした。
ありがとうございました。