世界で一番大嫌いで大好き。
だって、悠斗一人に私のすべてが振り回されているから。

そうあの日、バイト先の学習塾で始めて会った日から、悠斗は私の心の中にずかずかと踏み込んで来た。
誰も入らないようにしっかりと閉じたドアを開けて。
どんな魔法を使ったのかは、今も分からないけれど・・・。

そして悠斗はとってもストレートな表現を使う。
特に『好き』だとか『可愛い』とか『愛している』なんて、臆面もなく言葉にしてくれる。
何度も『』って、私の名を呼んでくれる。
口説かれているんだなってそう思うと、すごく嬉しい反面とっても困ってしまう。
愛の言葉は、その後に続く行為の始まりってことが多いから。
悠斗のその一言で、胸の鼓動が早くなる。
体の中の何かのスイッチが切り替わったように。
それまで自然に出来ていた呼吸さえも、意識していないと出来なくなって、まるで心臓発作でも起こしたように苦しくなる。

自分の身体なのにコントロール出来なくなる。

その時の自分の頼りなさを思うと、原因となっている悠斗に恨みにも似た気持ちを持ってしまう。
『可愛さ余って、憎さ百倍』なんて言葉があるけれど、この気持ちってそれの親戚かも知れない。
悠斗の事が、とても大嫌いになる瞬間。

どうして、こんな気持ちになるの?
彼を誰よりも愛しているのに。
他の女の子には渡せないほど、大好きなのに。
なのに私をこれほど振り回す悠斗が大嫌い。

彼の部屋に来て、ベッドに沈められる時。
悠斗に「、好きだよ。」って囁かれる時。
彼の言葉には、痺れ薬が混じっている。
私は狙われた小動物のように、身動きが出来なくなって、彼の与える官能に、思うがままに翻弄される。

その時は私が思っている気持ちなんかは、聴いてもらえない。
聴いてもらえないと言うより、言葉にさせてもらえない。
拒否する言葉は、唇でふさがれて。
逃げようとすれば、悠斗の身体で押さえ込まれる。
でも その後なら、どんなに文句を言っても悠斗は黙って聴いてくれる。
それって、身体をつなげた事による安心感なの?
こいつは僕の女だと言う、所有感なの?

悠斗の腕の中に抱かれて見上げれば、そんな考えが吹き飛んでしまうような優しい瞳。
私が上げる抗議の言葉すら、微笑んで頷いてくれる。
「ごめんね。どうしてもが欲しいんだ。こうして抱きしめていないと、不安になるんだ。
僕だけのだって確認したくて、を求めていると、つい、たがが外れちゃうんだな。
どっか痛くした?」
そんな風に言われると、ううんって首を振っちゃうじゃない。

駄目だね。
だって、なんだかんだ言っても悠斗のことが大好きなんだから。
こんなにも相反する気持ちを1人の男の人に持つなんて、なんだか不思議になる。
それでも それがどちらかに偏ってしまわない。
きっと、愛するって「嫌い」と言う気持ちと、「好き」と言う気持ちと、両方持っていないと成り立たないのかもしれない。
と、そう思った。

それだったら、大嫌いでもいいと思う。
大嫌いな分だけ、大好きになればいいんだから。

だから、これからもきっとこんな2つの気持ちを持ち続けると思う。

貴方が世界で一番大嫌いで大好きなんだと。





(C)Copyright toko. All rights reserved.
2005.06.15up