「殺される前に、こっちから殺してやる。」と、つぶやいてフォークをケーキに突き立てた友人の顔を見て、分からないようにそっと息を吐き出した。

何もそんな物騒な表現をしなくてもいいと思う。
お互いがなんとなく両思いじゃないかって分かっているのだ。
そう、バイトを初めて暫くした頃の私と悠斗のように・・・。
だから、多分どちらが告白するかの問題だと思う。

なんだけど、この物騒な台詞をはいた友人は、自分から告白をすることにしたらしい。

「でもね、告白を切り出すんだったら、もっと優しい気持ちでいた方がいいんじゃない?
あまり味気ないのも男の人だって嫌だと思うよ。
あとあとそれが原因で、頭が上がらなくなるかもしれないよ。」
告白するというのに、少しも甘い雰囲気じゃない彼女に、ちょっとアドバイスをしてみる。

だって、どんな告白をするのか心配で・・・。
『殺される』って表現に、なんだか普通の告白の仕方じゃないような気がしてその後の2人の関係に影を落とすようなことになりはしないかと、気をもんでしまう。
悠斗には『は心配性だな。』と、よく笑われるけれど、大切な友達には、幸せになって欲しい。

私が悠斗を好きで片思いをしている時には、彼女は本当に親身になってくれたし、一緒になって一喜一憂してくれていた。
だから、今度は私の番。

自分の時はどうだったかと、思い出してみた。

彼を見ると、いつも自分を見ていてくれて視線があうとか、助けが欲しい時は横から手を差し出してくれたり、声を掛けてくれたり。
とにかく悠斗は優しかった。
言葉や誘うような態度ならモーションを掛けられているって良く分かるけれど、誰にでもしそうな好意だと自分が勘違いしているかもしれないと、少し怖くなってしまっていた。
そんな些細な事の積み重ねが何度もあって、悠斗の優しさがとても嬉しくて笑顔がとても素敵だと思うようになって、悠斗が私を好きなんじゃなくて、私の方が彼を好きなんだと思うようになった。

それが私の片思いの始まり。

自分の気持ちを自覚してからは、悠斗が優しいのは私だけじゃないことを知る。
私だけが余計に優しくしてもらっていると感じたのは、きっとバイトの新参者だったから、頼りなく見えてそれで助けてくれているのだろうと思った。
他のバイトの女性と自分を比べては一喜一憂する。
片思いの間は針が右に振れたり、左に振れたり・・・と、落ち着かない。
そんな毎日だった。

だから目の前の彼女もきっと落ち着かないのだ。
どうしたらいいのか、どうすれば良いのかが分からない。
イライラしてしまう・・・・そして『殺される前に、こっちから殺してやる。』という言葉に辿り着いたんだ。
そう思ったら、なんだか彼女が可愛く見えた。

フォークを突き立てられたケーキは、無残な姿になっている。
きっとそれにも気付いていないに違いない。
「ねぇ、そんな誤解されるような台詞より、もっといい言葉を教えてあげようか?」
にっこり笑顔で彼女を覗き込む。
すると大きく見開いた瞳で、何度も頷く彼女。

「じゃあね、恥ずかしくても勇気を出してこう言うの。
『貴方が好きです。』って、素直に言うのが一番だよ。
きっと彼を殺さなくてもそれと同じ効果があると思うよ。
でもね、忘れないで。
彼も同じ気持ちなら、きっと同じような毎日を送っていたはずだって。
だから、優しくしてあげてね。」
そう言って無残な姿の彼女のケーキと私のを取り替えてあげた。

それを見つめて、じっとしている彼女の目から透明な雫がひとつ。
暫く黙ったままで、大人しくケーキを食べていた彼女が、「ありがとう、そう言ってみる。」と、ポツリと言葉を返してくれた。

こっちまで涙が出そうになった。
今夜の悠斗との電話で、私も彼に伝えよう。

『悠斗が好き』って。






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2004.12.29up