それは、あまりにも理不尽な要求だね・・・・と、内心で愚痴ってその男子生徒の顔を見た。
だって、『もし僕が第一希望の高校に合格したら、先生と付き合いたい。』なんて要求して来るんだもん。

ここで迷惑そうな顔をすると、きっとこの子の受験に響く。
15歳。
多感なお年頃だから、断るにも慎重になってしまう。
ただでさえ、今は精神的に危うい年齢。
その上に1ヵ月後に受験を控えている。
なんでまた、こんな時に告白してくるかな?
合格後になら、多少気が咎めたってきっぱりと断ることが出来るのに・・・。

でも今は、目の前の彼にどう返事をしようかと、それが第一問題。
正直に彼氏がいるって応えれば、大人しく身を引くかもしれない。
ただその後がちょっと怖い。
普通の時期と違って、父兄だって子供の様子には敏感になっているはず、だとしたら息子の様子がいつもと違うことには気付くだろう。
その原因を追われて、私や学習塾の問題になったら困る。
こういう所は、口コミによる宣伝が大きいから。
父兄の評判はとても大事にするというのに・・・・。
傷付けずに振ることなんて出来ない相談なのに、いったいどうしろと言うんだろう。
目の前で返事を待っている彼の存在から逃げ出したい・・・と、思った。

廊下から「、終わった?」と悠斗の声。
この教室には私と告白してきた彼しかいないのだから、窓越しに中を確認して声を掛けてきてくれたのだろう。
塾側からは、あまり生徒と2人きりにならないように言われている。
特に異性の生徒の場合は、慎重になって欲しいと。
昨今の教育者側のモラルの低下で、事件続きなものだから仕方が無いことだと思う。

私と彼のただならぬ様子に、悠斗はピンと来たらしい。
「おい君、先生に粉かけようって言うのか?
だったら、今告白するのは先生に対して卑怯だろう。」すぅっと目を細めた悠斗に、ある種の威圧感が生まれた。
「何が卑怯なんだよ。」
食って掛かって行くところはまだまだ子供っぽい。
「何だそんなことも分からないのか?
今君は受験前だろう?
もし、先生が断ったら君は落ち込むんじゃないのか?
そんな君に塾の講師として、先生が断りを口することは出来ないだろう。
それにバイトとは言え、此処は先生の職場だ。
仕事中である以上、プライベートで重要なことに応えられると思うのか?」悠斗の言葉に、彼はハッとしたような顔をした。

「それにだ、交際すればこんな時期に不謹慎だと言われるだろうし、断れば、配慮が足りないと先生は怒られる。
今はどちらも応えられなくて、先生は困るだけだ。
好きな人の立場や苦しむのが平気なんだとしたら、
それは相手が好きなんじゃなくて、ただの独りよがりだ。
だから、卑怯だと言ったんだ。」
悠斗の説明に、彼は納得してくれたらしい。
先生、すいませんでした。
僕、合格して塾の生徒でなくなったら、改めて申し込みます。」
私に一礼をすると、カバンをつかんで教室を出て行こうとした。

「おい。」
その背に悠斗が声を掛ける。
彼は悠斗を振り向いた。
「第一志望だ。
それ以外の高校に受かっても話は聞かないからな。」
挑戦するような物言いに、出て行こうとした彼がきっと悠斗を睨む。
「もちろんです。
第一志望に失敗したら、今の話しはなかったことにして下さい。
じゃ、失礼します。」
彼は私に会釈をして、今度こそ出て行った。

「まったく、油断も隙もないな。それもこれもが悪いんだ。
今夜はたっぷりお仕置きだな。」
「ん・・・待ってよ、私は何もしてないよ。
彼がそんな気持ちでいたなんて、今まで全然知らなかったし。
それに5歳も年下の中学生を誘惑なんてするはずないでしょ。
それをお仕置きだなんて・・・・・」
抗議の言葉を続けようとした私に、「いや、も悪いよ。
綺麗なお姉さんにあこがれる年頃だからね。
優しくされれば、簡単に恋に落ちるものさ。
嫉妬させられた分は、ちゃんと払い戻ししてもらわないとね。」
悠斗はそう言って、私の唇をふさいだ。





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2004.12.29up