「意外と相性いいかも。」
何気なく口にしたその一言を耳にした僕は、思わず身体の奥が熱くなるのを覚えた。

今夜は僕とのバイト先の飲み会で、この店に来ている。
バイトは中学生の学習塾。
僕は数学と理科を、は英語を教えている。
他にも進学に必要な5教科それぞれにバイトがいて、グループ授業や個人授業を担当している。
だから結構人数は多い。

その言葉を吐いたのは、の隣に陣取って飲んでいる奴だ。
彼は最近入ったバイトだから、僕とが付き合っているとは知らないのかもしれない。
さっきからなんだかやけにに擦り寄っているし、口説いていると言ってもいいような態度。

此処にいる人たちが同じゼミの学生だとか、サークルの仲間だったら遠慮せずにその首根っこを引っ張って、から引き剥がしてやる。
だが、バイトとは言え、仕事内での飲み会でまさかそんな行動に出る訳には行かず、さっきから隣の奴の話に適当に相槌を打ちながら、目を放さずに居る僕に聞こえてきたのが、さっきの言葉だ。

相性なんて、良いか悪いかはどれだけ2人が努力するかにかかってるんだ。
最初から相性が良いと思ったら、先ず相手が我慢していると思った方がいい。
お互いに手探りで始まる付き合い。
好きだからこそ相手の情報を一生懸命にゲットして行く。
その内に相手の行動や思考パターンが分かって来て、自然と合わせられるようになると僕は思っている。

好きな色。
好きな言葉。
好きな音楽。
好きな・・・・。

のそれを知るたびに、僕は彼女の好きなものを理解しようとした。
も僕の好きなものには、敏感に反応してくれるようになった。
そうやって、僕たちはお互いに認め合って、譲り合って、愛し合っている。
ぽっと出の奴に「意外と相性いいかも」くらいで、譲ってやれるようなじゃない。

僕の忍耐力が試される時間が終わって、ようやくお開きになった。
店を出たところで解散になって、別れの挨拶をして帰路につく。
もちろんを一人で帰したりしない。
恋人の務めと権利として、彼女を無事に帰すつもりだから。

「俺って優しいから、ちゃんとはいい線行くと思うんだよね。
どう、俺と付き合わない?」
奴がを誘っている。
僕の忍耐力は限界に来ていた。
バイト同士での争いは避けたかったが、恋人に手を出されて黙ってなどいられない。

そんな僕の耳にの声が聞こえた。
「優しい人は、そんな風に自分じゃ言いませんよ。
それに 意外と相性いいかも・・・なんて、本当に好きな相手になら言ったりしません。
予想外でしかない相手なんて、本命じゃないということなんでしょうから。」
そう言っては奴から離れて、僕の傍に来た。
あぁ、やっぱりは分かってくれているんだな・・・そう思った。

差し出してくれた手を取って2人で歩き出す。
、今夜は僕との相性を確かめるために、泊まって行って。」
握った手に力を入れて、の耳元で囁く。
「泊まらなきゃ確かめられないの?」
がちょっと照れながら、抗議の声を上げる。
「うん、男女の性質の合い具合を確かめるとなると、時間がかかると思うよ。
特に僕との場合は・・・ね。」
言外に今夜は寝かさないことを宣言する。

夜目にもが頬を染めたのが分かる。
「もう悠斗ったら、知らない。」
つないでいた手を放して、が足早に歩き始めた。
照れ隠しで怒ってなどいないと知っていても、僕はあわててその後を追った。
早く帰りたいのは、じゃなくて僕の方だったから。






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2004.12.16up