こんな事なら貴方に出会わなきゃよかった。

そう思ってどこが悪いの?
なんて、今心に浮かんでしまった感情に、自分で言い訳する。
少しの言い争いの後、向けられた背中を見ながら口には出さないけれど、心の中でつぶやく。

だって、いつも私には何も言ってくれない。
『知る必要がない。』って貴方は言うけれど、それは『私のことを大事に思っているからだ。』って、友達は笑うけれど。
私はそれは違うと思う。

都合の良い女でいて欲しいから、何も言ってくれないんだと思う。
きっと、本当のことを知れば今のままではいられなくなるからだ。

もうそれしか思い当たることがないような気がしてくる。

情けないけれど、段々思考が暗くなる。
それを否定したくて、今日は食い下がってみた。

「だからね、どうして私から電話しちゃ駄目なのか知りたいの。
そりゃ、悠斗は好きなときに私に電話できるからいいよ。
でも私には駄目だって言うでしょ?
私だって、自分が聞きたい時に悠斗の声聞きたいよ。
いつも待っているだけなんて嫌。
ちゃんと講義中やかけたらいけない時は、かけないよ。
それでも駄目なの?」

私の言葉は、彼の鼓膜を揺らしているはずなのに、すぐには何も反応してくれない。
ソファでハードカバーの小説を手元に広げて読んでいる悠斗の背中に言葉をぶつける。
大きく息が吐き出された後、パタンと本が閉じられた音がした。

、こっちおいで。」
少し首を回して、彼が手招きをした。
絶対誤魔化されない。
丸め込まれたら、今までと何も変わらないのだと、自分に言い聞かせる。
そう、今までと同じで悠斗が電話をくれなきゃこうして会えない。
『会いたい。』も『どうしてる?』も『好きだよ。』も
全部悠斗からのアクセス待ち。
私はただ待っているだけ。

もう、そんなの嫌。
今日で終わりにするんだ・・・と、心に誓う。
脳内では、ガッツポーズで気合を入れる私。
「誤魔化さないで、ちゃんと話してくれる?」
座る前に悠斗に確認をする。
「ん、ちゃんと話すから、此処に座って。」
そういう悠斗の隣に、ちょっと間を空けて座った。

だって、懐柔されそうで怖いから。
、僕が工大なのは知ってるよね。」
それにはコクンと頷く。
悠斗は工業大学の3年生だ。
「ただでさえ、女の子は少ない。
まして、僕がいるのは工学部だからね、女の子のパーセンテージは最も低いんだ。
彼女がいるのは、高校時代から付き合っている奴か、合コンやナンパで上手くまとまっている奴くらいで、非常に少ないんだよ。
僕のバイト先の塾にがやっぱりバイトで来なきゃ出会えなかったわけだし。
僕がと付き合っていると回りの奴らに知れてご覧、やれ『合コンをセッティンしろ。』だの『彼女の友達を紹介しろ。』だの言われることは目に見えているんだ。
挙句の果てには、『彼女に会わせろ。』って言い出すよ。
それで、どれだけの奴が別れることになったか・・・・。
入学してから散々見て来たからね。
僕はね、
と別れるようなことには、なりたくないんだ。
だから、我慢してくれるね。
その分、出来るだけ僕が連絡を入れるから。」
そう言って悠斗は私の腰を抱き寄せ、頬に唇を寄せる。

やっぱり、こんな事なら貴方に出会わなきゃよかった。

普通の恋人同士ならしなくてもいい苦労をしなきゃならない。
でも、それでも、貴方が好き。

頬に寄せられた悠斗の唇の感触に、私はそっと瞼を閉じた。






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2004.12.08up