Prophylaxis



結婚したからと言って、の何かが変わったとは思わない。
ただ、今までと違って堂々と3人で居られることは、
とても幸せなことだと思う。
けれども、「人妻」という肩書きは、
時として何処か淫靡な響きを持って聞こえる。
つい、そういう目でを見るせいだからだろうか、
最近とても色っぽくなったような気がする。
『しっとり』とか『艶めいた』とか言う言葉が似合う。
その白く磁器のような肌は、思わず触れたくなるし、
濡れて色めく唇は、キスを誘っているように見える。
生まれてこの方、ずっとを目にして来た俺たちでも
その美しさにクラクラとするのに、
他の男どもがそうならないはずがない。
俺たちのお姫様は、結婚したからと言って、
安心させてはくれないらしい。



夜。
3人で眠るベッドの上で、は隣から俺を覗き込むようにして見た。
「なに?」
笑顔と言うわけではないが、瞳には笑みが浮かんで何か楽しそうだ。
きっと、昼間何か楽しいことがあったのだろう。
そんなことをうかがわせる。
「今日ね、プロポーズされちゃった。」
その爆弾発言に俺と龍介は思わず「はぁ?」と、声を揃えて反応した。
既に俺たちが結婚していることは、一族の中では周知のことだし、
戸籍上は龍介の籍に入っているから、立派に人妻だ。
そのを捕まえて、誰がプロポーズをしたというのだ。
ちょっとどころか大いに聞き捨てならない。
俺が尋ねようとする前に、龍介が口を開いた。
「誰だ?」
言葉に形があったら、今の龍介の言葉には
鋭利な刃がついているだろう。
そんな事を思わせるように冷たかった。
「ほら、2軒隣の家に男の子が居るでしょ?
そのこがね、『ぼくが大きくなったら、
ちゃんをおよめさんにしてあげる。』って。
言ってくれたの。
これってプロポーズでしょ?」
クスクスと笑うは、完全に俺と龍介をからかっている。



相手が子供だと知って、安堵した。
綺麗なお姉さんを自分のものにするという考えは、
まあ、ありがちで可愛いものだ。
「今度きっちり、言って置かないとだめだな。」
十分に真剣みを帯びた龍介の声に、俺は思わず振り返った。
「何もそんなこと言わなくても・・・。」
「いや、例え子供でも20歳ほどの年齢差があっても、
男だからな油断できない。
鷹介、僕とお前がをこうして自分たちのものにするって誓ったのは
何時のことだったか覚えているか?」
龍介の言葉に、自分の記憶をさかのぼってみる。
確かに園児と呼ばれている頃には、その想いは確かにあった。
それを貫いてきたし、今も変わらない。
「そいつが本気だとして10年後、を奪えるだけの年齢になる。
子供と思ってなめない主義なんだ。
事、恋愛に関しては。」
心配そうな表情に変わってこちらを見ているに、
少しおどけて肩をすくめて見せた。
「口じゃあんなこと言ってるけれど、大丈夫。
龍は、子供に優しいから。
ただ、は俺たちの大切な人だって事くらいは、言うだろうけどね。」
納得したように笑んで頷いてくれた。



子供相手に大人気ないと言われてしまえば、
そういう態度で行動だ。
けれども、例え子供の約束でもそんな内容は許せない。
そう考えてしまう俺と龍介。
男の嫉妬は醜いと分かっていても、
のことになれば、そんな理性のたがなんて役に立たない。
自分の溺れっぷりに、笑ってしまうしかない。
龍介に抱き寄せられて口づけされているを見て、
これが龍介以外の男だったら、包丁を手にしているかもしれないと、
物騒なことを考えた。



※Prophylaxis(=プロフィラキシス)
予防処置。攻め込まれる前に、予め防御措置を整えておくこと


「小鳥の楽園」小鳥様から頂いたイラストに短いお礼レスドリを、
書かせて頂きました。小鳥様ありがとうございました。
イラストだけの展示は「Gift」にあります。

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2006.04.22up