Draw offer 3
「離れのお風呂を借りたんだ。
母屋のじゃ3人一緒には入れないからね。」
上機嫌の上にウィンクを飛ばして鷹介が言う。
龍介は私の抱えている着替えを腕から抜き取って抱えた。
それぞれに差し出された手に、私のそれを重ねる。
どこまでも優しくて甘い2人に、断る言葉は飲み込むことにした。
先日までは自室のように使っていた離れも、どこか余所余所しく感じる。
私たちが、お客様ではなくこの家の住人になった証だろうか。
3人で入っても十分に余裕のある天然温泉を引いたお風呂。
先に入ってもらった2人の後から浴室へと足を踏み入れた。
2人は洗髪中の顔を上げてこちらを見る。
「湯船に浸かって、その白粉を少し浮かせたほうがいいよ。
洗った時に良く落ちるだろうから。」
龍介にそう言われて、頷いて従った。
適度な温度に整えられている透明なお湯は、
じんわりと身体の疲れを癒してくれるようだ。
このまま浸かっていれば、眠ってしまいそうになるだろう。
「、こっちへおいで。」
目を閉じてお湯の癒しを堪能していた私に、鷹介が声をかけてくれた。
浴槽の縁に置いておいたタオルを手にして背中を向けて立ち上がると、
胸から下に当てて隠す。
濡れてしまったタオルではあまり効果はないのは分かっているけれど、
バスタオルを巻いて入ったら洗えないのでしょうがない。
そんな私を見て2人は「今更そんなことしなくっても・・・」と笑い合う。
確かにそうかもしれない。
自分では見れないようなところも2人にはすべて見られている。
本当に今更なのかもしれない。
けれども、例えそうであったとしても恥ずかしいと思う気持ちは、
なくならないのだから仕方が無い。
それに、男女のスパイス的要素になるだろうと思う。
羞恥心を忘れたような女にはなりたくないと思う。
洗い場に出ると2人の真ん中に座らされた。
両方からそれぞれが泡立てたタオルで身体を洗ってくれる。
白粉はある程度コールドクリームで落とされているものの、
すべてが落ちているわけではない。
だから肌の上に膜があるように感じている。
それが洗われることで落とされてさっぱりとする気がした。
手の先から上にあがって行ったタオルは肩まで行くと離れて、
足のつま先へと移動した。
閉じている足をゆっくりと開かれて、内側も洗われる。
恥ずかしくて閉じようとしたら足の間に龍介が身体を滑り込ませて来た。
鷹介がそれを見て背中に回ると、
私の両腕を押さえながら身体の前や胸を直接手で洗い始めた。
石鹸のぬるつきも手伝って、いつもとは違う愛無に感じる。
「視覚的にくるな・・・それ。」
足を丁寧に洗いながら龍介がタオルを手から放した。
4本の手に洗われて違う意味で感じ始めたからだがうずき出してしまう。
もう何度となく2人の手に翻弄されて来た身体は、拒絶なんか起こすはずもない。
目の前に用意された愛という名の快楽の中へ
惜しげもなく身をゆだねてしまう。
泣きそうなほど幸せだと知っているから。
何度も、何度も繰り返し自分で自分に尋ねた。
『貴女がこれから行こうとする愛の道は、
人からは決して歓迎もされないし、ほめられもしない。
むしろ、後ろ指を刺されるようなそんな愛の道だ。』と。
それでも、龍介と鷹介の2人の腕に飛び込んだのは、
2人からの熱烈な愛を感じたからだろう。
2人が双子でこんな運命の星の下に生まれていたのでなければ、
きっと2人とも失っていただろう。
龍介や鷹介は、2人のことを受け入れて、
ともに人生を歩む決断を下した私を得たことを、
とてもうれしく奇跡のように言ってくれるけれど、本当は違うのだ。
奇跡を起こしてもらったのは、私の方だ。
私なんかより・・・・この言葉は龍介に禁句にされたから使えないのだけれど、
2人にはもっと相応しい人がいたはずだし、
望めばどんな人でも彼らに屈するだろうと思う。
だから、本当の幸せ者は私だ。
2人は2人の愛を同時に受ける私を、とても大事にしてくれる。
それは宝物を扱うように。
現当主夫妻たちも同じようなご様子だ。
2人もきっとあんなふうに私を扱ってくれて、一緒に年を重ねていくんだ。
そう考えると、なんだか切なくなってくる。
幸せなのに、過去も現在も未来も。
2人と一緒で幸せなのに・・・・・切ない。
人はあまりに幸せで、それ認識すると、切なくなるのかもしれない。
そんな自己判断を下した。
とても口になんて出来そうもないからだ。
当主夫人に念を押された。
双子の2人は、一つの命を2人で分けているから、
一人ずつに見えても実のところ魂の深いところでは、やっぱり一人なのだと。
世間ではそれを無視する形で、2人が別々の人を愛し生きていくのだと。
けれども深山家の双子は、そうではない。
1人の愛しい女性を愛することで、2人は同じ愛に生きようとする。
本来は1つの命なのだから、当たり前のことなのだ・・・と。
2つに分かれた1つの命をつなぐ存在。
それが当主夫人であり、私なのだ。
だから、自分の愛を2人を同時に愛することを疑ってはいけないし、
揺らいでもいけない。
結び目が揺らいでは、2人の力が深山神社の尊主に届かなくなる。
・・・・らしい。
だからこそ、この地域の人たち、深山家一族は当主夫人を
ことのほか大切に扱うのだと。
自分の存在がそんなに大切だと言われると、恐ろしくなる。
けれど、もう私は選んでしまった。
こうして龍介と鷹介の愛に応えて生きることを・・・・・。
湯の温かさと愛撫で火照った身体の中に、
それよりも熱く焼けるような高まりが入って来た。
一瞬、脳内が白くかすむ。
私の乱れた髪を優しく額からよけてくれている。
閉じていた瞼をゆっくりと開けると、2人の微笑んだ顔が視界に入ってくる。
「俺たちの奥様は色っぽいな。」と、鷹介のうれしそうな声が降って来た。
「がのぼせると可愛そうだからな、早めにいけよ。」
龍介が鷹介を急かした。
今夜はどうやら鷹介が先につながることになったらしい。
いつの間にか2人の位置は代わっている。
頷いた鷹介が動き出すと同時に、私の身体も反応を再開する。
起こったさざ波はやがてひとつの大きな波になって、
私のすべてを包み込んでしまう。
気がつくと龍介と鷹介の間にいつものように寝かされていた。
「水飲むか?」
龍介の問いに頷くと、枕許の水差しからグラスに水を注いでくれる。
鷹介が身体を起こしてくれて、その身体に身をゆだねたまま
差し出されたグラスを受け取った。
のどが渇いていたのか、水がとてもおいしい。
水を飲んで落ち着くと、そこが今夜から自分たちの寝室にと定められた
次代当主たちの部屋である事が分かった。
「どうやって?」
「もちろん運んだんだよ。
大丈夫、ちゃんと着物を着せてからだから・・・・。」
龍介が少しからかうように笑んで言う。
「だけど、それだけだったぜ。」
私の手からグラスを取り上げた鷹介が、自分も飲みながら笑った。
そういえば下着を着けているような感触がない。
そのことに頬に熱が集まる。
「そんな可愛い顔して・・・・・」
龍介があごを持ち上げて覗き込んできた。
近づく彼の気配にまぶたを閉じて待つ。
すぐに少し冷たくて湿った唇が重なってきた。
同時に、浴衣の帯が解かれる音がする。
そして、むさぼる様に与える様に2人が私を愛し始める。
耳に聞こえてくる嬌声は、自分のものなのにそうではないように感じる。
投げ出されている身体は、私の意思とは関係なく
2人の愛に溺れてしまっている。
けれども、これから先の永い時を、私はこうして2人に愛され、
2人を愛して生きていくんだろうと思う。
誰にも 理解されなくても、
誰にも 愛されなくても、
龍介と鷹介さえいれば それでいいのだから。
完
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2006.02.15up
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