dear child 9





新学期が始まって、僕と鷹介は高校3年には高校2年に進級した。
進学する分野が違うので、僕は文系に鷹介は理系の選択を取った。
同じ高校というのは、とても便利だけれど心配ごとも増える。
見なくてもいい場面を見てしまうからだ。
僕はたまたま最終コマの選択授業からの帰り道で先生と話し込んでしまい、
誰もいなくなった特別教室棟から戻る途中だった。
その渡り廊下のある中庭は、別名「告り庭」と言われるくらいに、
告白するには絶好のロケーションで、有名な場所。
昼休みや放課後には、用の無い奴は行かない方がいい場所として
認知されているようなところだ。
見るともなしに中庭に目をやれば、今日も誰だか知らない男女が1組。
(どちらが告っているのかは知らないが、出来ればお幸せに・・・・)などと思って
立ち去ろうとしたところで、もう一度その男女のうちの女生徒の方を見た。
なぜなら、その後姿には見覚えがあったからだ。



いまどきの女子高校生にしては珍しいくらいの真っ直ぐな黒髪。
長身ではないが痩身。
でも 出ているところはちゃんと柔らかそうな丸みをおびている身体。
好きな女の子なら、その後姿といえども間違えない。
まして、幼い頃から彼女だけを愛しく思ってきたのだ。
間違えないだけの自信が僕にはある。
上履きだけど、すぐにそばに行ってをあの男から引き離そうと
渡り廊下から中庭へ1歩踏み出した。
廊下にひいてあるスノコが、僕の体重移動でバタンと跳ね上がって
派手な音を出した。
その音にくだんの2人が振り返る。
男の方は邪魔が入ったことに、あからさまに不機嫌そうな表情をしているが、
は僕だと分かると嬉しそうに笑ってくれた。



男の方に「それじゃ。」と会釈をして別れを告げると、
僕に向かって歩いてくる。
横に並ぶと「龍介が通ってくれて良かった。」と、安堵の息をついた。
「告白されたのか?」
そんな分かりきった質問を投げかける。
「うん、そんなところ。」
多分慣れているんだろうな・・・なんでもない事のように答えてくる。
僕が出て行って『俺の彼女に手を出すな。』とでも言ったらいいと思う。
でも の彼氏は僕1人じゃない。
鷹介もそうだ。
僕たち2人を彼氏に持つなんて、きっとが非難される。
俗に言う『二股』という状態だからだ。
本人たちはそれでいいと思っていても、世間的には規格外になる。
それがあるからこそ、のためにも見た目は今まで通りという事にした。
だから あそこで出て行っても相手に何か言えるはずも無い。
、今度から呼び出しとか受けたら断るか、僕か鷹に知らせるんだ。
何もなかったからいいけれど、あそこは人の出入りも少ないし、
何かあっても声が聞こえない場所だから・・・・いいね。」
の教室へ歩きながら、そう注意をした。



「龍介は心配性なんだから・・・・でも ありがと。
気をつけるよ。」
の軽い返事に思わず渋い表情になるのが、自分でも分かる。
もし今度呼び出されたりしても、きっと連絡をしてくるようなことは無いだろう。
それくらいは想像がつく。
本人が駄目なら、のそばで協力者を見つけるしかない。
がよく一緒にいる女の子で、僕や鷹介に協力してくれそうな子がいないか
頭に思い浮かべた。
、僕と鷹介のことを友達で誰かに話した?」
隠してはいるけれど、関係を知っていてくれている子の方が話は付けやすい。
「うん、実は前から1人だけには相談しているから、その子にだけ・・・。
龍介も知っているでしょ?
春野美雪ちゃんって、小ちゃくて可愛くて有名だから。
絶対に大丈夫だから安心して。
彼女も人には知られたくない恋をしているから、私だけがその事を知っていて
それで相談しているんだから。」
お互いに弱みを知っているのなら大丈夫だろう。



の口から語られた名前は、彼女の親友だと認識している子の名前だった。
春野美雪は、よりも5センチくらい小さくて華奢な女の子だ。
確かに特定の相手との噂はなかったように記憶している。
だからと言って別に興味は無いけれど。
もっともとは違うタイプとしてモテているようだが・・・。
僕たちとの関係を知っているのなら、協力を頼んでみよう。
とりあえず、へのちょっかいはそれでかなり防げる・・・と思う。
が他の男の告白を断ることはちゃんと分かっている。
でも男という奴の中には、力ずくで手に入れてしまおうと考える奴もいるわけで、
そういう奴に当たってしまうと、女の子では勝ち目が無い。
もとい、女の子の力では・・・だな。
身体の慣れに心も従うと本気で考えている馬鹿には、付ける薬が無い。
事実、同意の無いセックスで泣いている子が存在するわけで、
同じ男として、そんな奴は許せないと思う。
やっぱりセックスやキスには、双方の同意というものが必要だ。
この話をすると、鷹介には『龍はお堅い。』と笑われるのだが・・・。
申し込む男には気の毒だが、ちゃんとに断られたほうがいいだろう。
ただ 僕と鷹介のどちらかで、それが無事に終わるようにしてやろう。
それを見守るくらいは許されるだろうと思った。



春野に何とか話をつけて、の呼び出しや手紙に注意を払って
くれることになった。
ちゃん、綺麗だから心配ですね。」
春野は俺に向かってそんな嬉しいを言ってくれた。
ちゃんは呼び出しとか手紙とかもらうと、いつも話してくれますから
深山君たちが知りたいことお知らせすることが出来ると思います。
私も心配してたんです。
だって、ちゃん隙がありすぎますよね。」
なんだか外見と違って随分しっかりしてそうな子だと思った。
口にはしなかったけど。
ケイバンとメアドを交換して、もちろん鷹介の分も頼んでおいた。
これで、ひと安心かな。



いつものように3人で日曜日を過ごす。
鷹介が借りてきたというDVDを鷹介の部屋で、3人で見ることになった。
友達から借りてきたというそのDVDは、パッケージには何もない。
思わず眉間に力が入った。
おいおい、大丈夫なんだろうな・・・と、突っ込みたいのを横にいるが気になって
あわてて思わず飲み込んだ。
男の友達連中で回しているDVDとなれば、中身はおのずと知れている。
あまり女の子が見たいものではないことやそれを僕たちが何故見るか、
見てどうするのか、それを考えると軽蔑されそうな内容だろう。
ただでさえそう言われるものを、に見せるなんて鷹は何を考えているのか
さすがの僕でも考えが及ばない。
は、僕たちが覚えている限りで、キスさえしたことが無いはずだ。
小さい頃には、ありがとうの気持ちを込めて、頬や額にされたことは
あったかも知れないが、唇には無いだろうと思う。



つまり、は未経験の処女なんだ。
その女の子に、男が喜んでみるDVDは刺激が強すぎるんじゃないのか?
に見えないところで、鷹介に目で合図を送るが綺麗に無視だ。
いそいそとプレーヤーにディスクをセットして、リモコンを手にしている。
此処まできたら、覚悟をするしかないか・・・・。
ベッドに背中を預けてを挟んで鷹介と3人でTVの画面を見る。
どこの会社のモノか見定めようとしたが、それは無駄に終わった。
海賊版か個人の編集か・・・・。
ますます怪しい。



本編とも言える映像は、何処かで見たことのある映画とその俳優たちが繰り広げる
キスシーンばかりを集めたものだった。
どれも格好の良い男と綺麗な女が、叙情的にあるいは軽快に、
そして嬉しそうに苦しそうに悲しそうに、いろんな場面でキスをしている。
「綺麗だし素敵ね。」
横に座るの口から、ため息ともつかない呟きがもれた。
はどんなキスが好きなの?
ファーストキスするならどんなキスしたい?」
鷹介が画面から目を離さずにに尋ねた。
「ん〜、ちょっと怖いような気もするから、やっぱり優しくされたいかな。」
は甘えたようにそんな風に話すと、鷹介の肩にもたれた。
「じゃあ、目を瞑って。」
鷹介はの前に回りこむと、顎に手を添えて上を向かせた。



避けるように後ろへ逃げようにも、背中はベッドについているから
それ以上下がれない。
上半身を反らせてベッドにもたれている格好になっている。
「えっ、駄目だよ。
りゅ・・・龍介、鷹介が・・・・助けて。」
が差し出した手を僕は捕まえて握った。
「いくらのお願いでもそれは聞けないな。
だって僕たち、ずっととキスしたいと思ってたし・・・・。
心は手に入ったけど、後は何にも手にして無いんだよ。
大丈夫、怖いことなんか無いし酷いことなんてしないよ。
のことを大事に思って大切にしている、僕と鷹介なんだから。
安心して。」
の手のひらにキスを落として、その手を僕の頬に当てると
そのまま顔をの顔に近づけた。



鷹介もの手を握ってその手にキスをしている。
「好きだから欲しいんだ。
そのかわりにには俺と龍介をあげるよ。
俺たちを欲しいだけ全部。」
ほぼ同時に2人しての頬に両側からキスをした。
鳩が豆鉄砲を食らったように驚いて固まっている
、大好きだよ。」
鷹介が頬から唇を滑らして、耳元で囁く。
譲ってくれたわけではないだろうけれど、空いた唇へ僕は自分のそれを
押し当ててその柔らかい感触に酔った。
何度か啄ばむようにキスをして、そっと離れる。



その後を受けて、鷹介がキスをする。
やっぱり何度かそっと触れた後、息苦しくなって少し開いたの唇の隙間に、
そっと舌を滑り込ませた。
「ん・・・・あっ・・・。」
声にならないの声が、のどの奥でくぐもって外に響いた。
、鷹介の舌にのを絡ませるんだよ。
飴みたいに舐めるつもりで、力を抜いて。」
鷹介に有利なように、の耳元で囁いて誘導してやる。
飲み込めずに溢れたものが、唇の隙間から肌を伝って落ちる。
それを、僕が唇で受け止めた。
そのままそれを辿るようにしての唇にたどり着く。



鷹介は僕にその場を空けてくれた。
今度は僕が舌での唇を優しく、でも味わうように舐める。
鷹介に慣らされたの唇は、僕を歓迎するように開かれる。
今まで見ることしか叶わなかったの唇と、その奥の暖かく柔らかい
粘膜をゆっくりと舌先で撫でてやる。
僕のものではない、濡れたものが舌に触った。
のだと分かって、それに僕のを絡めて味わう。
あまりの愛しさに、このまま噛み切りたいと思ってしまう。
その要求を、暴走させないように押さえつけた。



鷹介と交代で、何度も唇を奪っているうちに、
にドンと何度か胸を叩かれた。
酸素が足りなくて、苦しくなったらしい。
僕と鷹介は交代だけれど、は1人で僕たち2人を受け止めている。
無理もないことだと、唇を放してに息をさせてやる。
上気した頬に赤くなった唇は、とても魅力的だと思った。
今日はこれ以上進むことは無理だろうと、僕たちはに見えないところで
見合って声を立てずに笑った。
せめてもとそれから暫くは、を僕たちで挟んだまま抱擁は解かなかった。
ファーストキスにはいささか濃厚だったような気がしたが、
は大人しくそのまま抱かれていてくれた。






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