花火を見る



小さな町だけれど、夏にはちゃんと花火大会がある。
少し遠くはなるけれど、神社から綺麗に見えるんだ。
それを教えてくれたのは、他ならない母だ。
浴衣に着替えた妻を連れて、職場でもある社務所に戻る。
本殿の縁には、その事を知っている町民が何人か来ているのが見えた。
けれども、そこへは向かわずに、僕は彼女の手を引いて社務所に入ると後ろ手で鍵をかけた。
誰かに2人きりの楽しいひとときを邪魔されたくないからだ。

2階の窓は、ここからの眺望を楽しむために大きく取ってある。
ここからの眺めはとてもいいだけでなく、
花火はまるで正面観覧席のようによく見えるのだ。
窓を開けずにクーラーをかける。
座布団を2枚隣同士に敷いて、そこに彼女と座った。
自然に手を繋ぐ。
もちろん、部屋の電気はつけない。
花火を見るためだから・・・。

時間が来ると、空に儚い花が咲く。
「きれいね。」
彼女が花を見てつぶやく。
「あぁ。」
肯定の返事をして隣の彼女を見ると、少し上向き加減の横顔。
花火の美しさにわずかに微笑んでいる。
繋いでいない手を彼女の頬に当てて、優しくこちらを向かせる。
「どうしたの?
花火見ないの?」
不思議そうに尋ねる彼女の唇にそっと自分のを押し当てる。
触れるだけキスにするつもりだったのに、抱いた背中に下着の凹凸の無い手触りに、一瞬で火がついた。
薄暗い部屋にわずかに水音が響く。
同時に押し殺した彼女の艶やかな声。
「はな・・・び・・は?」
そう彼女は花火を見に来たと言いたいらしい。
「見てていいよ。」
わずかに唇を離してそう言ってあげる。
仰向けになっている彼女からは見えるはずだから・・・。

片手で浴衣のすそを割って滑らかな肌に手を這わせる。
「上と一緒で着けてないの?」
彼女の手が上る事をはばんで来るが、キスを深くしてその力を弱めた。
双丘までたどり着いてみると、予想した布端が手にさわらない。
まさか本当につけてない?
普段の大人しめな性格からいって意外な事だった。
腰まで上ってそこに浴衣以外のものがあるのに気づいた。
花火の灯りを頼りに目を向けてみる。
「お腰です。
浴衣は線が出てしまうから、下着の代わりに・・・。」
確かに浴衣の下に1枚まとっている。
両手で顔を隠しながら恥ずかしそうに告白する可愛い妻。

やばい、悩殺された。
それからは、本当の意味で花火なんかどうでもよくなった。

空に瞬く花が見えなくなっても、しばらく帰れなかったのは言うまでも無い。





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