思い切り泣き叫ぶ



チョコレートの味にCMで出ているアイドルやバックに流れる音楽は関係ない。
そんな事はこの年になれば分かっている。
『おいしい』と言っている言葉が、本心からでないかもしれないことも・・・。

それでも、好きなアイドルがCMでそう言っていれば買いたくなるものらしい。
彼女もご他聞に漏れずその口らしい。
新製品のCMを見た翌日には、最寄の大手スーパーに買い物に出かけた。
人は秋になると”恋する気分”になるものらしく。
商品のコピーもそんな言葉が並ぶ。
まあ、僕は年中彼女に恋しているから関係ないけど・・・。

女性客でひしめき合うお菓子売り場には入らずに、隣の乾物の通路でカップラーメンの新製品を手にする。
僕にはこっちの方がよほど関心がある。
トンと足に何かが当たった。
2歳くらいだろう。
男の子が僕の足に当たって尻餅をついている。
助け起こして目線を合わせるのにしゃがむと今にも泣きそうな様子。
あわてて母親の姿を探したけれど、通路には僕と坊やだけ。
「ママ・・・。」
見る間に小さな瞳には涙があふれ、嗚咽が始まった。

きっと、広くて物があふれるスーパーでテンションがあがり、楽しく走っているうちにはぐれたに違いない。
「よしっ、ママを探そうな。」
抱き上げてやるものの聞こえているのかも定かではないほど坊やは泣き始めた。
「ママぁ〜、うゎ〜ん。」
こんな小さな体の何処から出るのか分からないほどの大音量。
耳のすぐ近くでやられた日には適わない。
「坊やのママは何処ですかぁ?」
とりあえず坊やが来た方へ向かって歩き出してみる。

通路から出るとみなが一斉に僕の方を見る。
腕の中で泣いている警報装置は、いまだ作動中だ。
広い店内に響き渡っている。
心当たりのある母親が聞けば、ピンと来るはずだ。
「すいません、坊やのママいらっしゃいませんか?」
僕も出来るだけ大きな声で呼びかけた。
隣の通路から彼女がひょっこりと顔を出す。
「覚えのある声だと思ったら、やっぱりね。
何、迷子なの?」
「そうらしい。
悪いけど見つかるまでそばに居てよ。
不審者と間違われると嫌だからさ。」
僕の言い分に、彼女はにっこりと笑って「そうね。」と言ってくれた。

それこそ、血相を変えたと言ってもいい表情の女性が一人近づいて来て、「すいません。」と坊やに手を出した。
「ママぁ〜。」と坊やもその胸に飛び込む。
「ご迷惑をお掛けしました。気づいたら居なくなってて・・・。」
どうやら坊や1人での探検は、まだ少し早すぎたようだ。
とりあえず、ママが見つかってよかった。

帰り道。
「でも、坊やを抱いているのとっても似合ってたわよ。
いいパパになれるかもね。」
アイドルが薦めるチョコをしっかりゲットした彼女にからかわれて、悔しいけれどちょっと照れてしまった僕だった。




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