勉強を教えてもらう
「古事記と日本書紀を読んだほうがいいかもしれないなぁ。」
私の知識を確認した後、彼はぼそっとつぶやいた。
「神様達の話はさ、古事記にほとんど載っていて、それを基にして神様を個別に祭っているんだ。
その中でも一番偉い神様が、伊勢神宮に祭ってある天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)様で、あの天岩戸に隠れた神様なんだ。
要は日本の太陽神だね。
神様達を理解するには、古事記や日本書紀を読むのが手っ取り早いんだ。
子供用にかなり優しく書いてあるのもあるし、漫画にもなっているからね。
そうだ、僕が昔読んだ本が、実家にあるかもしれないな。
明日にでも行ってみようか?」
どうやら私は小学生程度から、面倒を見てもらわなければならないみたい。
神職の妻になったと言うのに、旦那さまの仕事の内容も理解していないというのは、ちょっとへこむ。
彼に失望されないといいんだけれど・・・。
翌日。
仕事帰りに2人して彼の実家へ行き、彼の自室だった部屋に入った。
私が彼に片思いしていた期間。
彼はこの部屋で勉強して眠っていたんだ。
そう考えるとなんだかこの部屋が愛おしい。
彼が押入れに入っていると言う漫画の本を探している間、私は勉強机の椅子に座って、片思いをしていた頃を思い出していた。
彼と私は学年は私がひとつ下だ。
私の片思いは中学の頃から始まっている。
淡い想いだった中学時代。
告白を迷った高校時代。
大学生になってからは、神社の行事でしか彼の姿を見ることは出来なかったけれど、それでも行けば必ず見ることが出来たから、出かけて行った。
その熱心さが彼とのお見合いにつながった。
そう思えば、片思いの時間も無駄ではなかったかもしれない。
けれども、学生時代にひとつ年上の彼に勉強を教わってみたかったと思う。
触れ合う指先にさえ戸惑うくらいの初々しい頃の私を、見て欲しかった。
夫婦になった今でも、実はまだまだ彼に触られるとドキドキする。
そんな事はとても言葉に出来ないのだけれど・・・。
押入れから頭を出して、彼がこちらを見た。
手にした漫画を用意した手提げに入れている。
「あまりじろじろ見ないでくれ。」
「どうして?」
「自分の思春期の頃を見られてるような気分になるよ。ここでよく君の事を考えてたからさ。なんだか恥しいんだ。」
「その頃にこんな風に遊びに来て見たかった。
そして、テスト勉強なんか教わりたかったな。」
私の言葉に「そうだな。」と彼もつぶやいた。
「でも、あの頃の僕には、きっとこんな事はできなかっただろうな。」
彼はそう言うと私のおとがいに手をかけた。
唇がそっと重なった。
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