雪上を転げ回る
家の神社の参道は、近所の小学生の通学路にもなっている。
参道付近に民家があるからだ。
社務所の前で集合して、登校するらしい。
だから、2時を過ぎると、低学年から順に下校するのを見送る。
4年生くらいまでは、社務所の私に向かって手を振ってくれたり、外に出ていれば話をしてくれたりする。
でも男の子達は高学年や中学生になると、段々手も振らなくなり、話もしなくなってしまう。
みんなと仲良くしたいのにと思っているから、少し寂しい。
それを彼に話してみた。
「男は、照れが出るからなぁ。」と、彼はちょっと遠い目をして言った。
そういうものなんだ。
それじゃ仕方が無いのかもしれない。
そう思うことにした。
クスッと笑う彼を不審に思い、見上げてみる。
「あ、わるい。変な意味で笑ったんじゃないよ。
僕にも覚えがあるからさ。年上の綺麗なお姉さんは、思春期の男の子にはまぶしいんだよ。
子供のように純粋に好きだからって見られなくなるっていうかさ、本当は話もしたいし、そばにも近付きたいんだけど・・・。
それよりも自分の体の反応とかさ、まぁ、色々あるんだ。
でも、決して嫌いじゃないから、挨拶だけもしてやったら?
内心じゃ飛び上がりたいほどうれしがっているかもな。」
なんだかやけにリアルな説明。
きっと彼にもそんな事があったに違いない。
そんな事を言われたからではないけれど、中学生や高校生の男の子にも返事を期待しないで挨拶することにした。
社務所の前の雪除けをしていると、下校してきた3人の中学生の男の子が通った。
「こんにちは、お帰りなさい。」
私の声に、一番手前の子が「た・・だいま。」と、ぎこちなくではあったが返事をくれた。
たった一言だけれど、とってもうれしい。
「気をつけて帰ってね。」
会話するように、もう一言付け加えた。
今度は、ただ会釈をしてくれただけだったけれど、それでも私には十分だった。
友人たちに冷やかされて肘で突かれて帰る後姿に、思わず笑んでしまう。
ふと振り返った彼に、私は小さく手を振った。
それを見た友達が、彼を参道脇の新雪の中へ突き飛ばした。
友達も彼の横に飛び込む。
その大きく上がった笑い声に子供らしさを感じて、なんだかほっとした。
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