落ち葉で焼き芋




うちの神社の境内は、針葉樹がメインの森だ。
ご神木は、真っ直ぐに伸びる杉だし。
それでも、他の樹がないわけじゃない。
そこは鎮守の森と言うだけあるから、広葉樹も結構混じっている。
この季節になると、その落葉の掃除も仕事の1つになる。
子供の頃は、よく手伝わされたものだ。
境内で落ち葉をはいて集めている彼女の見送りを受けて、近所の地鎮祭の仕事に出かけた。

無事に仕事を終えての帰り道。
通りかかったスーパーの店先に、ベニアズマのかご盛を見つけた。
さっそく、1盛り買って社務所に帰る。
表参道脇にある正月やどんと焼きの時に使うお焚き上げ場には、彼女が集めた落ち葉がうず高く山になっている。
急いで台所に行って芋を洗い、アルミ箔で包んだ。

目ざとく見つけた彼女が「焼き芋?」と、尋ねてきた。
焼き芋は別名『乙女羊かん』なんて言うらしいから、女性の大好きな食べ物なんだろう。
どうやら彼女もそうらしい。
「私、落ち葉で焼くお芋は初めて。」と、期待いっぱいだ。
その可愛い笑顔に、芋を買ったときの恥ずかしさも薄れる。
数本の芋があるから、祖父母にも分けられるし、確かばあ様も好きだったはずだ。

彼女を連れて落ち葉の中に芋を入れ、火をつけた。
まだ、乾いてしまっていない落ち葉だから、すぐには燃え上がらない。
火を点けてもくすぶって煙ばかりだ。
ふわりと風が吹いて、その煙が僕たちのいる方へ来た。
もちろん息苦しい。
何よりも周りが真っ白になった。
袖の端がつかまれてクイッと引かれた。
視界がゼロじゃ不安にもなる。
袖を引いている手をつかんで、彼女の身体を抱き寄せた。
少しだけ歩けば、煙の中から出れるはず。

でも、その前に。
お芋のお礼を前払いで、掠めるようにキスを1つ。


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