おそろい




氏子の方達から頂いたお祝いを整理してみると、そのほとんどが対の物ばかりだった。
夫婦茶碗、夫婦箸、ペアのスリッパ、ペアのコーヒーカップなどなど。
貰ったこちらが気恥ずかしくなるような、新婚さん用ばかり。
でも、それが社会の外側から見た「夫婦」ということなのだろう。
そう思えば、覚えた気恥ずかしさも、しっかりしなければという思いに変わる。

自分達で揃えた物の中にも、おそろいは幾つかある。
その中で一番目にする物は、左手薬指のマリッジリングかもしれない。
社務所からの帰り道、道に人気がないのをいいことに2人して手を繋いで歩く。
お見合いしてからすぐに結婚への準備が始まったから、交際期間は結婚準備期間になってしまった。
だから、普通の恋人のように、手を繋いで歩いたりする時間が少なかった。
こうして、結婚してからの方が、恋人のように過ごしている。

男なんてお揃いの小物など正直苦手だ。
女の子はとても喜ぶが、男にとっては使うには抵抗感がある。
特に人の目に触れるような物のおそろいは、使えないと思ったりする。
けれども、マリッジだけは特別だ。
彼女が僕の妻であると一目で分かるものだという事もある。
僕らの年齢で結婚する事は、あまり無い。
友人達の間でも早い方だ。
それだけに、マリッジリングでもしていないと、既婚者だとは絶対に分からないだろう。
特に彼女はすれていない感じが、時には未成年にさえ見せてしまう。
だから、絶対にリングを外さないようにと言っている。

休日に出向いたショッピングモールで、少しそばを離れたすきにナンパされていた。
気づいて駆け寄ったら彼女が「既婚者ですから主人を待っているんです。」と、必死に説明をしながら、指輪を見せていた。
その姿がとっても可愛くて、ナンパした男もなかなか立ち去らない。
後ろからせきばらいをして「妻に何かご用ですか?」と尋ねれば、渋々ながら立ち去って行った。
多分、とっても大変だったのだろう、それから彼女は一日中僕から離れなかった。
まあ、僕も離さなかったけど・・・。

見えるおそろいも必要なんだと、少し認識を変えたことは内緒だ。
今度、腕時計をペアで買おうかなんて考えている。




(C)Copyright toko. All rights reserved.