雷に怯える
空模様が心配だと彼女は窓から暗い空を見上げている。
その手には、園児達にもって帰ってもらう千歳飴がダンボールに入っている。
飴をつめる作業をことさらに彼女は嬉しそうにやっていた。
神社の祭礼で七五三が一番心が和む。
それは、やっぱり相手が子供だからだろう。
きらきらした瞳で千歳飴の袋に手を出す子を見ると、いつかは吾が子も・・・なんて、ちょっと未来に心をはせたりして。
うん、まだそんな気配すらないのが本当のところだけど・・・。
見合いだった事もあって、僕はもう少し2人で居たいんだ。
にぎやかな一行が社務所の座敷から、彼女に連れられて本殿へと移動する。
飴を配るころになって、空から社殿のガラスを揺るがすような雷音が聞こえてきた。
当然、子供たちの中には耳をふさぐ子も出る。
「みんな、怖くないよ。
雷様はね、学問の神様でもあるんだ。
だから、みんなの頭がよくなりますようにって、お祝いにゴロゴロしているんだよ。」
僕の話に、子供たちは意外そうな目を向けてきたが、それでも、なんとなく場の緊張はそがれたようでほっとした。
「さっきの雷様のお話本当?」
園児達を見送って仕事も終わっての帰り道で、彼女が尋ねてきた。
「ん、道真公は天神様として信仰されているからね。
まあ、全部でまかせじゃないよ。
雷が落ちたのは1回だけだったみたいだし、それも自分を貶めた相手と朝廷への恨みからだって話だけど。
でも、落ちた場所が清涼殿だったからね。」
「どうして清涼殿?」
「うん、清涼殿ってさ、天皇の日常生活の場なんだ。
だから、余計に天皇を狙った所業だと思ったんだろうね。
で、朝廷は道真を鎮めるために、北野天満宮を建てたわけ。」
「ふーん、やっぱり雷って怒ったりする事の代名詞なんだ。」
なんだか彼女はしきりに感心してくれた。
官職にあれば道真公の事は、自然と覚えてしまう。
天満宮は学業の神様として分社も多い。
「でもさ、怒りからとはいえ雷神になるのは悲しいよね。」
彼女らしい視点で、平安の故人を偲んでいる。
「ん、そうだね。
道真が去った都の屋敷にさ、彼が愛でていた梅の木があってさ。
その梅が、主を追って一夜にして飛んでいったという話があるんだ。
今でも大宰府天満宮には、その飛んで行った梅の木の末裔があるらしいよ。
追って来てもらえるように、僕も梅の木を愛でなくちゃね。」
彼女の手を取って握った。
「雷様になるかもしれない人は、ちょっと・・・」
そう言って離れようとした彼女をギュッと引っ張った。
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