一枚の毛布に包まる



落雷で電気が落ちるというのは間々あることだけれど、雪国では雪の重さに耐えられなくなった電線が切れて停電することがある。
あんな細いものにも雪は降り積もるのだ。

夕食も済ませて、お風呂に入った後にそれは起こった。
僕は危機管理にはそんなに積極的ではないけれど、それでもファンヒーターの他に、反射板の石油ストーブを用意している。
けれど、普段は使わないから・・・と、小さいサイズのものだ。
懐中電灯で照らしてもらい、それを押入れから出し、灯油を入れて点火した。
ろうそくなどの灯りがなくても、反射板のおかげで結構明るい。
だけど、小さいストーブだから、暖を十分に取れない。
「今夜は、ここで寝ようか。」
リビングに布団を敷いて眠ることにした。

静かな夜だ。
雪が降る夜は、特にそう思う。
どれだけでも寒くないように布団はひとつにして、毛布を一枚足してみた。
2人でそれに潜り込んだ。
彼女の身体を腕の中に入れて、やさしく包む。
僕も彼女も暖かくなる為に。
風呂上りの彼女の髪が鼻先で甘く香る。
テレビも音楽もない夜だから、つまりは早寝なわけで・・・。
不謹慎だけど、そういう気分になってしまうのは、きっと僕だけじゃないはず。

そんな言い訳をして、彼女の名前を呼んだ。
腕の中から見上げてくる瞳は、眠いのか何処かぼんやりしていて、それが可愛くて抱きしめる腕に力が入る。
「ちょ・・・っと、苦しいかも。」
胸の辺りから聞こえるくぐもった声に我に返る。
「ごめん。」
少しだけ力を抜いてあげると、大きく息をする。
その唇にキスを落とす。
驚いたのか、瞳がしっかりと開いて僕を見た。
一瞬だけ離したキスを、もう一度。
僕の意図が伝わるように、彼女の官能を呼び起こすように。
ゆっくりと・・・。
背中に回した手を、パジャマの上着のすそから入れる。
滑らかな背中の中央のくぼみを撫でながら上に登ってゆく。
「あっ。」と艶を帯びた声とも息ともつかない音が、彼女の口からこぼれた。
これから彼女が普段には見せない女の顔になる。
背筋をゾクゾクとした何かが駆け上がった。

と、その時。
いきなり世の中が明るくなった。
そう、電気が戻ってきたんだ。
彼女が僕を見て、クスクスと笑った。
きっと、情けない顔をしていたんだろう。
「電気を消して、今夜はこのままここで・・・ね。」
彼女は、戸締りと部屋の灯りを消して、僕の待つ布団に戻ってきた。
誘ったらその気になってくれるだろうか・・・。
なんだかしらけちゃった感もある。
今夜はもう応えてくれないかもしれない。
そう思いながら、僕は少しだけ冷えてしまった彼女の身体をもう一度温めようと腕の中に迎え入れた。





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