説教する
「お夕飯何にしようかなぁ。」
思わずポツリとつぶやいてしまった言葉。
主婦なら誰でも頭を悩ます問題だ。
主婦歴1年目の私には、それほどレパートリーも無い。
「よかったら今夜は一緒に食べない?
氏子さんのお宅から、山葵(わさび)を頂いたから
今夜はおいしいお刺身にしようと思っているんだけれど、年寄り2人じゃお刺身もあまっちゃうから・・・。」
こうして頂き物があると、お婆様は私達を夕食に誘ってくださる。
おいしいご飯と夕食の支度をサボれる事に釣られて、私と彼は甘えることが多い。
「ばあさんは酒の相手はしてくれんからのぅ。」と、今夜の酒の相手を捕まえたお爺様は、彼を隣に座らせてご機嫌だ。
彼も楽しそうに返杯を重ねている。
「どうだ、新婚生活は?」
「えっ、えぇ、まあ、何とかやっています。」
「そうか、お前もしっとろうが、神様で最上神は天照大神尊様だ。
つまり女神様って事だ。」
「あぁ、そうですね。」
「どんなに男が威張っていても、所詮は女神様の手のひらの上で、可愛く転がされとるって事じゃな。
破瓜の痛みも出産も男には耐えられないほどの痛みだそうだし。
男は土台女神様には叶わないという事になっとる。」
「そういうものですか?」
「そういうものじゃ。
だからの、家の中の女神様には逆らわんことや。
時々ご機嫌を伺い、捧げ物をしてかしずくんじゃ。
そう、神様に仕えているのと同じだな。
逆らったり、意にそむけば、たたりや災いがある。
だからして、奥様の事は山の神というでの。」
クイッと杯の酒を飲み干して、お爺様は得意げに笑った。
「あんなこと言って、困ったお人ですね。
でも、ああやっている所は本当に童のようで、男の方はいつまで経っても可愛いところがありますでしょ?」
隣のお婆様がそれは楽しそうにお爺様を見る。
その微笑む姿を見て、なんだか私も心が温かくなった。
彼を見れば、同じような事を思ったのか、私を見て微笑んでくれている。
私も意識的に口角を持ち上げて笑顔を作った。
お酒が入ると何度も同じ事を繰り返すもの。
お爺様はその晩ずっとそのことを繰り返して下さった。
彼はちょっと呆れた顔で、それでも何度も頷いていた。
本当に優しい人。
そんな彼と縁で結ばれてこうして夫婦でいることが、とても嬉しくて、幸せだなぁって思った夜になった。
帰り道、「あのリピートはちょっと拷問だった。」とこぼした彼は、「でも、あれが夫婦円満の秘訣かも。」と、私に拍手を打って拝んだ。
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