投げ飛ばす




結婚すると男の人って態度がそれ以前とは変わるっているけれど、それは本当だなって最近分かった。
でも、私の場合は、先輩である彼の中身をよく知らないで憧れて片思いしていただけだから、違うとは言い切れないかもしれない。
温厚で、優しくて、格好好い男の人だと思う。
最近の言い方だと、イケメンって言うのかな。
ホストにでもなればと、思わないでもない。
だから、中学時代も高校時代もとてももてたし、人気があった。
だけど、こうして夫婦になってみると、遠くから見ていた彼とはちょっと違う。

彼は意地悪だ。
本当の意地悪じゃなくて、私をからかったり困らせたりする程度だけど・・・。
お爺様とお婆様に言わせれば、「新婚の男の人はあんなもん」だそうだ。
孫である彼の事を、とても可愛がっていることを知っているから、甘いのかと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。
お婆様が私にそっと耳打ちして下さった。
「貴女にだけちょっぴり意地悪なのはね、新妻が可愛くて仕方が無いからよ。
あの子には兄弟がいるけれど、神社の仕事は手伝ってくれなかったわ。
あの子だけが、私達や神社の事をよく手伝ってくれたの。
でもね、それは優しいとか、この仕事に興味があるからだけじゃなくて、貴女を見るためだったらしいのよ。
ほら、ご家族で必ず参詣して下さっていたでしょ?
まあ、それに気づいたのはお爺さんなのだけどね。」
クスクスと笑われて、頬が熱くなる。
「貴女のそんなところが、可愛いのよ。」
背中をポンポンと叩かれて、お婆様は離れていかれた。

その日、一日中恥ずかしくって彼の顔をまともに見られない。
お互いがずっと片思いをしていたんだと打ち明けたから、知らなかっただけで想い合っていたことは知っている。
それでも、私の姿を見るのが目的で、神社の仕事を手伝っていたとは・・・。
私が参詣に来る保証もなかったし、来たとしても姿を見る事ができた時間はわずかなものに違いない。
まして、口を効くことさえ出来なったのに。

帰宅後、全てが終わりもう床に入るだけになったところで、「なんだか今日は様子変じゃないか?何処か具合でも悪いの?」
心配顔で覗きこまれる。
「ちっ、違うの。なんともないよ、ただ・・・。」
恥ずかしくって貴方が見られないなんて、妻としての言葉とも思えない。
「ただ、なに?」
「何でもないの。気にしないで。」
もう逃げの一手しかない。
「なんだよ、何でもないなんて、そんなことないだろ。
ちゃんと言ってくれないと分からないじゃないか。
約束しただろ、何でも話すって。」
何処か責める様な彼の言葉に、手元のクッションをギュッと抱え込む。

じりじりと責めて来る彼から逃げるために、後ろに下がった私は追いつめられた。
もう逃げ場がない。
何か、そう何かしなくちゃ。
思わず抱えたクッションを彼の顔に・・・。

ごめんね。





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