衣装交換
「予約の時間がもうすぐだな。」
そう言って彼は立ち上がった。
彼の後ろを追って、着替える為に衣装を置いている部屋へと向かう。
社務所で着ている神官用の白い着物と水色のはかまを、礼拝用の狩衣に着替えるためだ。
私は巫女さん用の赤いはかまをつけている。
今日の予約の参拝者は、厄除けのお祓いとの事。
時間から言って、今日はこの神事で最後になる。
防虫用の香の匂いが香る部屋へ入ると、脱いで置かれたはかまをたたんだ。
その間に彼は、手馴れた手つきで着替えを終えると、姿見の前に立ちえりやすそを点検している。
平安時代から変わらない形のそれをまとうと、きっと公家の公達ってこんな風に素敵だったんだろうと、自分の夫に見惚れてしまう。
もう、何度となく見ているのに、見慣れない。
神事はとどこうりなく進められ終わった。
参拝者を見送ると、宮司の義祖父母は後片付けを頼むと言い置いて社務所横の宮司宅へと引き上げられた。
本当は私達もそこへ住むべきなのだろうけれど、そんなに部屋数がないということと、近々2世帯住宅に立て直して、私達も住むことになっているから、今は神社の近くの賃貸マンションに暮らしている。
事務所を片付けてから着替えることにし、2人でさっさと片付けて事務所の灯りを落とした。
彼が背後で着替えるのを、音として耳にする。
衣擦れの音はシュルシュルと耳に心地よい。
私もようやく慣れてきた着物や袴を脱ごうと結びに手をかけた。
不意に後ろから伸びてきた手に動きを止められた。
「なに?」
「ん? なんでもないよ。
ただ、さっきからこうしたかったのを、我慢してたからさ。
でも、神事の前にさすがに女体に触れたら駄目だからね。」
つかまれていた手が解かれると、そのまま後ろ抱きにされてしまった。
「じゃ、着替えて早く帰ろ。
ここでこれ以上は神罰が当たっちゃうよ。」
肩口に埋められている彼の顔。
うなじにかかった髪がくすぐったい。
「ん、分かった。
玄関で待っているから早くね。」
そう言って後ろから頬にキスがひとつ。
「うん。」
返事をするとすぐに彼は部屋から出て行った。
あの様子では、すぐに玄関で痺れを切らしてしまいそうだ。
「急がなきゃ。」
着替えを出来るだけ手早くしようと、動きに集中する。
神官の着物を脱ぐと、気持ちも着替えてしまうのか、とっても同じ人とは思えないほど、なんだか彼は子供っぽくなってしまう。
その真っ直ぐな気持ち、そのままで私を愛してくれる。
友達には『とてもお見合いになんて見えないよ。』って言われるほど、私達は仲良く見えるみたい。
見えるだけじゃなく、本当に仲もいい。
彼がずっと私の事を思っていてくれたと知ったのはお見合いの席だった。
最初は本気にしなかったけれど、彼の本気の求愛に本当だったんだと思い知った。
夜毎日毎に、私は神の使徒に愛される。
きっと今夜も
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