手を繋ぐ



”お行儀良く、で、幸せそうに笑って”
呪文のように自分に言い聞かせる。
朝から緊張しっぱなしで、笑顔もこわばって来ちゃった。
昨夜はお布団には入ったものの、あまり良く眠れなかったし。
でも、今日は私が主役だし、幸せな花嫁さんだから笑顔は必須だ。
幸せの涙は許されても、それはほんのちょっぴりだけ。
好きな人と結婚できるんだから、幸せだ。
けれど、どんなに幸せだって、笑いっぱなしではいられない。
高砂の反対側で歌を歌ってくれた男性に拍手をしながら、出来るだけの笑顔を向けた。
打ち合わせの時に頭に入れておいたこの後の式次第を思い出す。
もう少しで披露宴もお開きになる。
がんばれ私。

目の前の美味しそうなコース料理も全然食べられない。
1人前何万円もするのになぁ。
さっきから食べないままお皿が下げられてる。
お腹も空いて来たなぁ。
控え室に何か食べるものあったっけ・・・。
思考がどんどん関係の無い方向へと向かってしまう。
長い祝辞と空腹に疲れて、退屈してきたんだなぁと、隣の彼を見た。

ちゃんと祝辞を笑顔で聞いているのを見ると、彼はやっぱり私よりも大人という気がする。
年齢は確かに1歳上だけれど、もっとその差を感じる。
私には勿体無くらいに出来過ぎの人。
女の子にだってとってももてていたのに、何を好んでこんな平凡な私を選んだのか。
いまだに良く分からない。
友達だって、彼と結婚することになったと言ったら、物凄く驚いていたっけ。
そうだよなぁ。
驚くよ。
自分でもそうだもん。
どうしても紹介したい人が居るんだと言われて、お見合いさせられた席に、彼が居たのは私のせいじゃない。

その席で、彼が私の事を気にしてくれていたと聞かされて、『デートに誘ったら、断らないでくれますか?』と尋ねられて、『はい。』と返事をした。
それからすぐにデートの誘いがあった。
本気なんだ・・・本当に私のことが気になっていたんだ。
そう思ったら嬉しくって、彼の誘いを受けていた。
ずっと片思いだとばかりお互いが思っていたことを知ったのも、それからすぐのこと。
あの時は、嬉しい反面、お互いの臆病さに笑いあった。
『これからは、黙っていないで何でも話し合おう。』と、彼は言ってくれた。
『せっかく両想いだったのに、無駄にしてしまっていたから・・・。』と。

そして、今日の日があるわけだ。
次代の宮司の結婚披露宴だから、祝辞が長くて続くのは仕方が無いかな。
テーブルの影にあった右手が何かに包まれた。
驚いてみてみれば、横から伸びてきた彼の左手だった。
手のひらを返して彼の手を受けて、手を繋ぐ。
彼は先程のまま前を向いて話を聞いている。
けれども、優しく繋いでくれた手が、彼の気持ちを私に伝えてくれた。

『好きだよ。』って。





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