Stay with me
Please call my name.麗華×司 番外編
本当は、誰の目にも触れさせないように閉じこめてしまいたい。
「司さん、見て!すっごく綺麗だよ!」
明るい満面の笑顔が向けられる。
向けられた者すべてがつられてしまう彼女の笑顔にかなうものはいないだろう。
「ちょうどいいタイミングで良かったね。一番紅葉が綺麗かも」
「うん、そうだね」
「天気もいいし、絶好の行楽日和!連れてきてもらって良かったぁ」
一応彼女は受験生、11月にもなると普通は必死で紅葉狩りの余裕なんてないだろう。
日帰りで鎌倉に行こうと誘った時、当然ながら彼女は渋った。
「司さん、私、これでも受験生なんだけど」
「うん。でも、多少の気分転換は必要だろ?」
「『多少』じゃないと思う…」
眉を「ハ」の字にさせて困っている。
彼女の言い分もごもっともである。「気分転換」の名目で何回連れ出していることか。
花火大会、海水浴、遊園地、映画、秋祭り、果ては俺の妹の誕生日プレゼント探しまで。
一般的な受験生のスケジュールではない。
「まあまあ、この前の模試ではA判定だったよね」
「うんっ!司さんが丁寧に教えてくれたところバッチリ出たの!
司さんの教え方って本当に分かりやすくて最高!」
ぱあっと顔を明るくして、感謝の気持ちを満面の笑顔で表す。
誰もが笑みを返したくなるような、そんな笑顔で。
週に二回、俺は彼女の勉強を教えている。
これでも現役大学生だ、多少の勉強は教えられる。
ただ単に彼女と一緒にいたいがために、自分の勉強は二の次で彼女のために受験勉強のおさらいをしている。
二人の努力の甲斐あって彼女の成績は希望の大学の合格ラインを余裕で上回っている状態だ。
「どういたしまして。麗華はがんばりやだから教え甲斐があるよ」
「そ…かな」
照れる顔がたまらないくらい可愛い。
頬をほんのりとピンク色に染めて。
「その『最高の家庭教師』さんへのご褒美に出かけよう?」
「そう来たか。もう、仕方ないなぁ」
たいていのことにおいて彼女は俺に甘い。
優しい彼女はいつも自分より他人を思いやってしまう。
そして、いつも彼女の優しさにつけ込んでいる俺。
「でも日帰りにしてね」
「了解」
さっきまでイヤだと言っていたのに、行くと決まったら切り替えが早い。
スケジュール帳に「紅葉狩り」と花丸マークを書いて、天気の心配をしている。
「てるてるぼうず、作ろっと」
そんなことを言う彼女が可愛くて。
「麗華、A判定よく出来ました」
耳にかかったた髪をかきあげて、指先で耳たぶをもてあそぶ。
「や…!?」
くすぐったいのか肩をすくめ、困ったように俺を見上げた。
「頑張った麗華にはご褒美をあげる」
声に熱がこもるのも仕方ないだろう。
すぐに甘い吐息をもらし始めた彼女が目の前にいれば。
目を閉じた彼女の唇に自分のそれを重ね、絨毯にそっと横たえた。
有料駐車場に車を入れ、手荷物を持ってまでの道を歩いた。
たくさんの行楽客にもまれて離れないよう手を繋いで歩く。
身長差約30センチだから彼女に合わせると歩みは非常に遅い。
何故か彼女だと苛つかずに合わせることが出来るから不思議だ。
出来ればゆっくりと、出来るだけゆっくりと時間も進めばいいのに。
「荷物、重くないか?」
「ううん。今回はお弁当作ってないから軽いよ」
こんな時、彼女はたまにお弁当を作ってきてくれることがある。
意外と料理上手な彼女で俺はありがたいばかりだ。
付き合う前、俺の母親の作る菓子を絶賛していた彼女はお菓子作りが苦手だと言っていた。
それを聞いていたから料理自体ダメなのかなあと思っていた。
よくよく聞くと菓子作りは几帳面さがとても重要で、よく言えばおおらかな彼女はつい目分量をしてしまい失敗するのだそう。
総菜などは多少の適当でもなんとかなるらしい。
「司さん、お弁当作ってこなくて良かったの?
こんなに天気がいいなら外で食べても良かったんじゃない?」
「麗華に食べさせてあげたい店があるんだ」
食いしん坊な彼女は食べている時の顔もとても可愛い。食べてしまいたいくらいに。
「何食べるの?」
案の定期待に胸を膨らます彼女はきらきらした目で見上げてきた。
「秘密」
「え〜気になるなぁ」
澄ました顔で答えると、ちょっと不満顔の彼女。
けれども食いしん坊のお姫様はすぐ気を取り直してヒントを求めてきた。
「和食?洋食?中華?それだけでも教えて」
「麗華はどれがいい?」
「え?決まってるんでしょ?」
「食事はね。
前と後ろ、ほかに立ってもいいし、座ってでもなかなか…」
何のことを言われているか分からずにしばらく頭を捻っていた彼女は、ぴんと来たらしく眉をひそめた。
「まさか」
そこで分かりづらかったところをはっきり付け足す。
「麗華は正常位が好きだよね。今日は立ち正常位、してみよっか」
「しっしない!!どうしてご飯の話からそっちに行くの!!」
そりゃあ、当然。
「麗華も美味しくいただかないと」
「私はご飯と同レベルですかっ!」
おや、ちょっと拗ねてしまった、珍しい。
膨れて拗ねている顔も可愛いだなんて思っている自分もいる。
両方とも無くては生きていけないという点では同レベル。
でも、彼女無しで心が正常でいられるかは別問題。
「ここで正直に言ってもいい?」
必ず行動が伴うけど。
付き合って一年も経つと俺の行動パターンもだいぶ把握したらしい。
彼女はぶんぶんと首を横に振って、力一杯拒否した。
「いいっ!言わなくていいですっ!」
そんなに拒否されると余計にしたくなるものだよね。
「今は」やめておくことにしよう。
午前中は瑞泉寺の辺りを散策して、昼食は父が懇意にしている小料理屋に連れて行った。
裏の路地にひっそりと佇むその店は、店主が趣味で開いているために毎日開いているわけではない。
前から彼女を連れていきたいと思っていたから、鎌倉行きが決定してから即電話して予約した。
子供の頃から俺を知っている店主は、隣にいる彼女ににこやかに微笑み、心尽くしの料理を振る舞ってくれた。
「うわ〜キレ〜」
「おいし〜…」
料理を見ては感動し、食べては感動し、素直に感情を表す彼女。
途中でハッとして、
「『美味しい』ばっかりじゃ芸がないっていうか、ありきたりすぎだよね。
もっとこの美味しさをうまく言葉に出来ないかなあ」
真剣に考える彼女に俺は思わず吹き出した。
「グルメリポーターじゃないんだから必要ないだろ。
麗華の顔で充分表現出来てるから」
どれだけ美味しいと思っているかなんて一目瞭然。何千の美辞麗句よりあきらかだ。
「ソレって、私の顔が変ってこと?」
微妙に複雑な顔をする。
「違う違う。
麗華の美味しい顔は、皆が『美味しいんだろうな』って分かるくらい幸せそうな顔だってこと」
「そ〜かな〜」
「そうだよ。滝さんも分かってるって」
視線を向けると店主の滝さんも頷き、奥さんの由子さんも大きく頷いた。
「いい食べっぷりのお嬢さんね」
「そこに惚れました」
「司さんっ」
とたんに真っ赤になってしまう。ホント可愛いんだから。
くすくす笑う俺と恥ずかしそうにもじもじする彼女を滝さん夫婦は微笑ましげに眺めていた。
彼女がトイレで席を外している間、由子さんが楽しそうに空になった食器を片づけにきた。
「本当によく食べたわねえ。
司くんの言ってることはまんざら冗談じゃなかったのね」
「それだけじゃないですよ」
あくまでもきっかけ、惹かれて、好きになって、ここまで溺れてしまうにはそれだけじゃ足りない。
由子さんは「分かってるわよ」と苦笑して、俺の顔をしみじみと眺めた。
ふと瞳をやわらげて、母親のように笑う。
「雰囲気が柔らかくなったのは、彼女のおかげね」
子供の頃から俺を知る人たちは一様に「柔らかくなった」と言う。
自分では柔らかくなったなんて思ってもいない。
昔から人当たりだけは良かったから大人には可愛がられた。
ソトヅラのいい子な俺を見て可愛がる大人たち。
大人の喜ぶ態度を演じるのはあまりにも簡単で、いつも冷めた目で眺めていた。
今考えるとかなりヒネた子供だったと思う。
ずっとそんな感じだった。
「おい、違うだろう」
今まで話すことは奥さんの由子さんに任せきりだった滝さんが口を開いた。
「何が違うの?」
由子さんが尋ねたとき、ちょうど彼女が戻ってきたために、滝さんの答えを聞くことは出来なかった。
ただ、帰りがけに珍しく、
「また来なさい」
と彼女に言ったのに由子さんと二人で驚いてしまった。
再び紅葉の山の散策を始めた。
赤、オレンジ、黄色の色とりどりの葉の中を時折休みながら歩く。
彼女は楽しそうに俺と手を繋いでいる。俺を見上げて幸せそうに笑う。
付き合って一年と少し経って、彼女は変わったと思う。
具体的には言えないけど、とても綺麗になった。硬い蕾が匂うような大輪の花を咲かせた。
花は色あせることなくいまだ咲き続け、俺を捕らえて離さない。
俺と付き合うことが彼女が綺麗になった一端だと自負しているが、俺はただ手助けしたにすぎない。
きっとますます綺麗になっていくことだろう。
いつか、俺の手から離れていってしまうかもしれない。
「司さん、見て!」
彼女の指す方向に視界が開けた。
澄み渡るどこまでも青い空と赤と黄色の絨毯、
一枚の絵画のような景色が目の前に広がっている。
「綺麗…」
隣に佇む彼女がため息と共につぶやく。
うっとりと周りの景色を眺めている彼女は同意を求めるようにほほえみを浮かべた。
「綺麗だね」
とても綺麗。きっと誰もがそう言うだろう。
けれども、俺にとって一番綺麗な存在はたったひとり。
手を伸ばし、小さな身体を両手の中に閉じこめてしまう。
本当はずっと閉じこめてしまいたいんだ。
誰の目にも触れさせないように、誰の姿も見えないように、彼女を閉じこめてしまいたい。
永遠に俺だけしか見えないようにしてしまいたい。
けれど──────
腕の中の彼女はすぐに俺に身体を預けた。当たり前のことのように。
彼女が俺を信じているから、俺が自分を傷つけることはけしてないと信じているから、出来ない。
彼女は俺がいなくてもいずれ必ず美しく咲く花だった。
俺以外の男の手でも美しく咲くことが出来たはず。
「司さん、連れてきてくれてありがとう。来年もまた連れてきてね」
来年も、その後も、君が望むかぎり。
俺の隣にいてくれるなら。
「もちろん。一緒に行こう」
どこへでも。君と一緒なら。
「司さん…」
俺の名前を呼んで。
愛しげに囁くのは俺の名前だけにして。
彼女は幸せそうに笑い、背伸びして俺にキスをした。
俺も彼女にキスを返す。何度も繰り返しキスをして、まるで誓いのキスのように。
いつまでも、俺の腕の中で咲く花でいて。
「鎌倉みやげと言ったら『鳩サブレ』でしょう!」
と言い張るので、豊島屋で鳩サブレを買う。普通に東京で買えるのに。
つられて俺も買ってしまった。
駐車場に戻って車に乗り込んだとき、彼女が小さく叫んだ。
「どうした?」
「綺麗な紅葉の葉っぱを拾うの忘れてた!あ〜失敗」
「何に使うの?」
「出かけた思い出にとっておくの」
恥ずかしそうに照れ笑いする彼女の姿に、俺は大事なことを忘れていたことに気づいた。
「じゃ、紅葉の綺麗な所に近くまで車で行って取ってこようか」
「え?いいよ、わざわざそれだけのために」
「俺も忘れていたことがあったからちょうどいい」
彼女がシートベルトを締めたことを確認して車を動かす。
まっすぐにおおよそのあたりを付けた方向へ。
「何を忘れたの?おみやげ?お財布とか?」
心配そうに俺の顔を見つめる。俺がよほど真剣な顔をしているからだろう。
「うん。とっても大事なことを忘れていた。俺としたことが」
本当に情けない。俺らしくもなくあの美しい光景にセンチメンタルになっていたらしい。
「司さん?大丈夫?いったい何を忘れていたの?」
益々心配そうな顔をする。俺はハンドルを握ったまま、彼女に心から謝った。
「麗華、ごめんね。大事なことをするのを忘れていた。俺、彼氏失格だ」
「大事なこと?」
俺の顔から答えを探すように真剣に見つめている彼女。
その間にも車は進み、ちょうどあたりを付けていた場所に到着した。
鬱蒼と茂る山のはずれ道の行き止まり、木で陰になり車があるとは分かりづらくなっている。
エンジンを切って、シートベルトを外し、彼女の座席の左下に手を伸ばす。
「司さん?きゃっ!?」
がたんと音がして勢い良くシートが横になった。彼女は当然そのままシートとともに倒れる。
「司さ…んんっ!?」
すかさず覆い被さり驚きに開いた唇を奪った。
「何を…?やんっ」
ラグランTシャツをたくしあげ、ベージュのブラジャーに包まれた可愛い乳房を露わにする。
「ちょっ、ちょっと何するのっ!」
「ごめんね、麗華。麗華を美味しくいただくのを忘れていた。
彼氏失格だね」
「なっ!」
みるみるうちに真っ赤になる顔と身体。あっというま熟す、いつでも食べごろな御馳走。
ほら、赤い実を摘むと甘い吐息を漏らしている。
「本当は外でヤりたいけど、風邪を引かせたくないから車で我慢して」
「ちょっと待って!ヤダ、車でなんて、誰か来たら…んぁっ」
硬く色づく果実を指先で刺激して、甘い唇を貪りながらささやく。
「大丈夫、ここは穴場だから。安心してしようね」
「安心なんて出来ません────っ!」
じたばたじたばた暴れる彼女。ま、常識人な彼女なら充分予測していた行動だ。
でも、ダメ。もう止まらない。
逃がさないよ。俺に惚れられてしまったのだからもう遅い。
諦めて、俺にすべてを差し出して。
いつまでも、君が綺麗に咲くようにたくさん愛するから。
いつまでもずっとそばにいて。
砥子さま、相互リンク&素敵なバナーありがとうございました!!
大変遅くなって申しわけございません。
拙いですがどうぞ貰ってやってくださいませ。
頂いたリクの「麗華×司でアオカン(なんて書いてないのに勝手に私が拡大解釈。
すみませんm(_ _)m)」に何故かどうしてもならず・・・。
車の中でになってしまいました・・・。きっと寒いからいけないのよ(←天気のせいにする)
しかも湿っぽい。ああ、陰気くさいよ、司!!
っつーか、司って「拉致監禁派(←どんな派?)」みたいです。
もちろん麗華は美味しく食べられてしまいました。
ではでは、これからもどうぞお付き合いよろしくお願い致しますm(^^)m
【ぐうたらねこの部屋】 ぐうたらねこ 様よりの賜り物です。
相互記念に頂きました。ありがとうございました。 わがままを言って大好きなCPで、リクエストさせて頂いちゃいました。
【ぐうたらねこの部屋】 ぐうたらねこ 様へは、 Giftメニューのサイト名とLink Siteにリンクがあります。 素敵な作品に出会えます。是非どうぞvv
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