愛ある世界


 雨が降ってる。
 しとしと、しとしと、降り続いて、本格的に梅雨って感じ。

 雨の日は嫌いじゃない。
 排気ガスとか、工場が吐き出す煙とか、スモッグとか、
埃とか、とにかく都会の汚いものが全部洗い流されてしまうような気がして。

 人の、心のなかに溜まった澱も。

 あたしは今、先生の運転する車の助手席で、フロントガラスを流れる雨の向こう、
白く煙った街をぼんやりと眺めている。
 手前に見える信号の青が、雨に滲んで綺麗だ。

 行く当てのないドライブを提案したのはあたし。
 先生は少し渋っていたけど、お得意のかわいいおねだりであっさり陥落。
 でも、喜び勇んで車に乗り込んだのも束の間、
 いくらも走らないうちに雨が降り出した。

「どっちかな」
 運転席でハンドルを握る先生が言う。
「何が?」
「柚月が雨女なのか、僕が雨男なのか」
「さあ……あたし達があんまりらぶらぶだから、神様に焼きもち妬かれたのかも」
 先生が、前を見たまま小さく笑う。
「かわいいこと言うね」
 先生の左手が、サイドブレーキを飛び越えてあたしの脚へ。
 ミニスカートから覗く太腿をゆっくりと撫でる。
 スベスベした掌の感触が心地良い。
「どこへ行こうか、これから」
「どこでもいいよ。もともと行き先なんて決めないで出てきたんだし」
「そう。じゃあ、もうしばらくこのまま走ってみようか」
 先生は、右手でハンドルを捌きながら、普通の顔で、普通の会話をしてる。
 でも左手はとてもいたずら好き。
 いつの間にか、あたしの腿の間に入り込み、敏感な部分を探ろうとしてる。
 ショーツの上から軽く触れるように指が動く。
「ぁん……」
 腿に力が入るのと同時に小さく声が出てしまった。
 スリットを上下するのとは別の指が、つんつんと内腿を突付く。
 意味がわかったあたしは、脚の力をほんの少しだけ抜いた。
 その拍子に、蜜がじんわりと溢れ出す。
「あ……」
 こんな状態で、恥ずかしい。
 あたしは、先生の手を挟み込んだまま、きゅと腿を閉じた。
 先生はクスリと小さく笑っただけで、そのまま運転を続ける。

 やがて、脚の間からそっと手が引き抜かれる。
「ん、ふぅ……」
 焦れったい、けれど絶え間のない刺激から解放されて、思わず息が洩れた。
 次に先生の手は、あたしの右のふくらみを包み込む。
 掌を押し付けるようにされて、頂点が硬くなる。
 ブラジャーとコットンのシャツを通してでも、尖ったソレは容易に探り当てられる。
 ソコを中心に円を描くように愛撫される。強く、弱く。
 あたしは、耐え切れず先生の手首を掴んだ。
「どうしたの?」
 笑いを含んだ声で先生が聞く。
 意地悪。
 これからあたしが言う言葉の予想もついているんでしょう?
「も、ダメ……車、止めて」
「こんなところで?」
「ど、どこか……静かなところへ……」
「了解」
 合図のように指で弾かれて、背中が仰け反る。
 同時に、じゅわっと溢れる熱い蜜。
 お願い、早くと気持ちが焦りだす。
 火を点けられた身体は、癒されるまで静まらないから。

 先生は、カーナビを頼りに人気のない通りを選び出す。
 両側に工場や倉庫の並ぶ広い道。
 けれど、日曜日の午後、おまけに雨降りで通りがかる人もいない。
 ハザードを点灯させて停車中の車が何台か。
もしかしたら、あたし達みたいな淫らなカップルが、
あの中で愛を紡いでいるのかも知れないね。
「柚月……」
 先生が覆い被さってきて、唇が重なる。
 とても熱くて深いキス。

 ああ、これ……そう、このキスが欲しかったの。
 触れ合った唇からあたしの全てを侵食していくような激しいキスが。
 心の中まで濡れてしまうような甘いキスが。

「んん……」
 あたしは甘ったるい鼻声を洩らして、先生のうなじを抱きしめる。
 あたしの口中を探るように舌を絡めながら、先生がリクライニングのレバーを引く。
 ガクン、と倒れた拍子におでこ同士がぶつかって、2人で笑った。
「あ……すごい」
 手を伸ばして触れた先生のソレは、もう熱を持って脈打って、
ズボンの上からでもわかるくらいに大きくなっていた。
 先生は照れたように笑いながら言う。
「柚月から誘ってくれなかったらどこでどう切り出そうかと思ってた。
あのままずっと運転するのなんて無理っぽかったから、
最初に見えたラブホにでも乗り入れちゃおうかなって」
「それでも良かったのに」
「だってさ、柚月はドライブに行きたかったんでしょう? 
なのに即行でホテルじゃ、せっかく出掛けて来た意味がないじゃない」
 そっか……そんな風に言われちゃうと答えに困るんだけど。
 本当はね、あたしにとって、場所なんて関係ないんだもん。
 先生とひとつになれる空間があればいい。
 それが今日は、たまたま車の中だっただけ。
「ねえ……どうされたい?」
「え?」
「前から、後ろから、それとも君が上になる?」
 ……普通、オンナノコにそんなこと聞くか?
 あたしが答えに詰まって黙っていると、先生が続けた。
「柚月の好きなようにしてあげる。だから言って?」
 あたしを見下ろす先生の薄茶色の瞳。
 他の誰にも見せない、優しいけれど熱い眼差し。
 ああ、あたし……この眼差しに包まれたいと思ってるんだ、きっと。
 だから、あたしは素直にそう言う。
「普通に抱いて……先生の身体で、あたしを包み込むみたいに」
 先生はニッコリ笑って頷いた。
「うん、わかった」
 スカートの中に先生の手が入ってくる。
 今日はいているのはフレアのミニ。別にそんなつもりじゃなかったのに、
このためにわざわざこれを選んだようにも見えて、少し恥ずかしい。
「これ、いいね。脱がせやすくて」
 もぉ……やっぱり言われた。
 それから、先生の唇の端に浮かんだニヤニヤ笑い。
「もしかして……そのつもりで着てきた?」
「ちっ、違う! 絶対違う!」
「ムキになっちゃって。かわいい、柚月」
 膨れてそっぽを向いてみても、先生に頬を突付かれて、思わず吹き出しちゃう。
 敵わない……大好きな先生には。
「服を着たままっていうのも、結構そそられるものだよね」
 ショーツを取り去られ、スカートを捲られ、何も覆うもののなくなった下半身と、
反対にボタンひとつ外されていない上半身。
 確かに、見ようによっては、全裸よりも猥褻かもしれない。
「いやぁ、もう……そんな風に見ないで……」
「また、そんなこと言って。ここはもう準備万端って感じなのに」
 ぐちゅぐちゅ。
 すごくいやらしい音をさせて、先生の指があたしのソコに沈み込む。
 少しの抵抗もなく、滑らかに。
「あぁあ……」
 ほらね、て笑う先生。
 ソコは本当にもう恥ずかしいくらいに濡れて、先生を待ち侘びてる。
 欲しい、と思う。
 今すぐ、あたしの膣内(なか)に入ってきて。
「良いかな?」
「うん……大丈夫」
 あたしが頷くと、先生は狭い中で器用にズボンを脱ぎ、挿入の準備を整えた。
 それをジッと見つめてしまうのも変なので、
あたしは叩きつける雨が滝を作るフロントガラスを眺めていた。

 いっそ洪水になったらいいね。
 このまま2人、どこかへ流されてしまおうよ。

「入るよ、柚月……」
 耳元で低く囁かれて、胸がキュンとした。
 先生が入ってくる。
 あたしの膣内(なか)が充たされていく、先生のモノで。
「ああ……先生、すごくイイ」
 僕も、て言いながら、先生が少し眉を顰めて微笑む。
 男の人なのに、なんて色っぽい顔をするんだろう。
 あたしは、先生のシャツの裾から手を入れて背中に爪を立てる。
 それは先生の動きに合わせて、滑らかな肌に線を引く。
「あんっ、んぅんっ」
 両脚が肩に担ぎ上げられる。
 結合がいっそう深くなって、海老のように丸まったあたしは大きく声を上げる。
「あぁぁん!」
「すごい……深いよ、柚月。飲み込まれてしまいそう」
「んふぅ、ダメ……それ以上したら、あたし……」
「もっとだ……もっと奥まで、僕を導いて。君のイイところまで」
 これ以上は、ダメ……きっと堪えていられない。
 なのに、あたしの中の襞々は、先生を誘うように動いてしまう。
 先生に絡みついて締め付けて、卑しい生き物のように蠢いている。
「あっ、ああっ」
 あたしの真ん中に先生が当たってくる。
 ぐいぐいと押し付けられるたびに、自分の意志とは関係なく身体が跳ねて。
「うっ、ふぅん……あ、はぁあっ」
 狭いスペースで激しく動くことができない分、
先生は、深く入ってから抉るように掻き回したり、
先端を行き止まりに押し付けて円を描くように腰を回転させたりしてくる。
 眩暈がする。
 変則的な動きに、感じすぎて頭がおかしくなりそう。
「ああ……いや、もういや」
 思わず口走った言葉に、先生がぴたりと動きを止めた。
「本当に? 柚月が嫌なら止めてあげる。ねえ、本当に嫌なの?」
「うぅぅ、い……いやじゃ、ない……」
「じゃあ、どうなの? 感じてる? 僕のコレは、気持ちがイイ?」
 嫌なわけないのに、やめて欲しいわけないのに、
感じてないわけないのに、気持ち良くないわけないのに。
 そんなの全部、わかってて聞いてくる先生は、やっぱりとても意地悪だと思う。
「あっ、ああっ、ダメ……もう、ダメ」
「我慢することない、イっちゃいなよ」
 入り口の辺りまで退いて、貫くように深く挿し込む。それが何度か繰り返される。
 あたしの膣内(なか)がうねうねしてるのがわかる。
柔らかい襞のひとつひとつが、なんだかまるで、
先生のソレに媚びようとしているみたい。
 あたし淫らだ、きっと、ものすごく。
「かわいいよ、柚月……本当に、君って子は」
 とことんまで僕を夢中にさせる……先生はそう言うけど。
 夢中にさせられてるのは、あたしの方なの。もう先生の意のままに。
「先生、好き……大好き……もっと、もっとぉ」
 そう言葉に出すことで、さらに激しく急角度で、快感が私を高みへと押し上げていく。
 大きな波に流されそうで、怖くてもうどうしようもなくて先生の背中にしがみついた。
 先生はそんなあたしを受け止めるように抱きしめて、耳元に口を寄せて囁いた。
「……愛してる……」
 あたしも。
 あたしも先生を愛してる、先生を求めてる、先生があたしの全て――。
「あぁあっ、イっちゃう、イっちゃう、イっちゃうぅぅぅっ」
 先生の腕に力がこもる。
 きゅうきゅうと収縮するソコで、一気に大きく硬くなるモノ。
 ソレがぴくんぴくんと跳ねるたびに、あたしの身体も同じように痙攣してしまう。
「柚月……」
 その瞬間に先生が呼ぶのはあたしの名前だ。
 決して、他の誰でも有り得ない。それがとても嬉しい。
 あたしは、グッタリと胸に倒れこんだ先生の頭を抱き寄せた。

 ふふ……。

 小さく笑ったあたしを、先生が怪訝そうな顔で見上げる。
「ここって、笑う場面かな?」
 先生のモノが、ゆるゆるとあたしの泉から抜けていく。
 白濁した液体の溜まった小さい袋の口を軽く縛って、座席の下に置いた。
「ごめん」
「で、何が可笑しいの?」
「こんなに狭いところで一生懸命頑張っちゃって、
傍から見たらさぞ滑稽だろうなあって」
 あたしが言ったら、先生もプッて吹き出した。
「いきなり何を言い出すかと思えば……君は時々突拍子もないことを言うね。
そりゃ、そうだよ。
セックスなんて、所詮は滑稽なものだろ?」
「やってる当人は大真面目なのにね」
「でもさ、こうして愛し合ったあとって、穏やかな気分にならない?」
「うん、なる……今ね、すごく幸せなの」
 そう……あたし達は今、とても満ち足りた気持ちで抱き合っている。
 閉ざされた小さな箱の中、空気は濃密になりすぎて、窓ガラスに結晶を作ってる。
 こんな風に……穏やかに休息したいばっかりに、あたし達は滑稽で、
だけど大いに素敵な努力をする。ベッドの中や、時には狭い車のシートの上で。
「だからいいんだ、無駄に頑張っても」
「相手を気持ち良くしてあげて自分も気持ち良いんだから無駄じゃあないよ」
 それどころか、とても有意義な営みだと思うよ。
 先生はニコって笑って、あたしの髪を撫でる。
「そうだね……僕はとても気持ちが良かった。柚月は?」
「うん、あたしも……」
 あたしは頷いて、それから、しばらく2人で笑った。
 あたし達って、本当にバカップルかも。

 やがて、笑い声は吐息に変わる。
 こういう時、あたしはいつも少しだけ戸惑うけれど、先生に手を引かれるようにして、
一緒に快楽の波に巻き込まれてしまうのは好き。
 その手を、ずっとずっと離さないで欲しいと思う。

「……2回戦、いきますか?」
「もぅ……先生、えっちなんだからあ」
「ええ? その台詞、そっくり柚月に返すよ」
 言いかけた言葉をキスでふさがれて、そして……。

 まだ止まないでいてね、と雨にお願いする。
 もうしばらくの間、あたし達の小さな箱には覆いが必要だから。

 どんな場所でも、大好きな先生と一緒にいれるなら天国。
 その瞬間は、あたし達だけの世界になる。

 壊されたくない、2人の世界に。
 愛ある世界に。





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【Precious Things】チチャ様より
2005.06.20




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